06

本部で国近ちゃんや椿、風見、ほかにもお祭りに行く女子隊員たちを着付けのできる数人で着付けし、祭り会場に向かった。
祭囃子を聞きながら多くの人が行きかう祭り会場は地元のそれと同じ空気であった。
意外だったのが椿だが、彼女は米屋に誘われたらしい。

会場で合流したのは当真や穂刈、影浦、村上。
学年を超えて参加した出水は暇だったんで柚宇さんのお誘いに乗りました、と笑い米屋は暇だったから椿誘って弾バカについてきました、と言う。仲のいい二人だ。

それでも、まぁだいたいいつものメンバーだ。

「お、可愛いの頭に挿してんな?二階堂」
「忍田さんから誕生日プレゼントにもらったの、挿すのにすごい緊張した・・・」

さっそく当真からツッコミを受けると、それぞれから本部長の事になると変わるな、と生暖かい目で見られる。
嬉しいものは嬉しいのだ。

「場所取りと買い出し班で別れるか」
「なら当真と穂刈は場所取りだな、帰る場所の目印になる」
「看板かよ俺ら」

当真、穂刈を場所取り班に、買い出し組は飲み物を出水と国近ちゃん、
たこ焼きに米屋と椿、焼きそばが食べたいという当真の願いは影浦と風見に託された。
当真と穂刈じゃ場所取り前に出店で遊んでそうだ、という声が上がったので残った私と村上は二人の見張りになった。

「二階堂が祭りに来ると思わなかったな」

左右でにぎわいを見せる出店の間を歩きながらそう言ったのは村上だった。
ソースの焼けるにおい、金魚すくいで金魚の跳ねる音、草履の底で感じる砂利の感触が新鮮で少し目移り気味だった私はちょっとだけ内心驚いてしまったが、隣を歩く彼は気づいたらしく少し笑った。

「目移りするんだな二階堂でも」
「同級生とか年の近い子とお祭ってあんまり来たことないから新鮮で」

地元にいた頃は友人なんて数えるほどもいなかったし、お祭りに行くときは弟の付き添いというか見張り役で行くことのほうが多かった。
こうして感じてみるとお祭りにはいろいろな屋台があるし人も多い。
街中の人混みと違って嫌悪感があまりしないのはお祭特有の高揚感がそうさせているのかもしれない。

「まぁ、あまり乗り気ではなかったかな・・・。
国近ちゃんが無理やり引っ張ってきてくれたからいるんだけど、来てよかったかも」
「射的でもどうだ?祭り初心者なら」
「・・・場所取り」
「二階堂は冷静だなー、ちょっとくらい遊んでも大丈夫だろ」

狙撃手二人はすでに射的の列に並びながら笑っている。
一回だけ、と村上君にまで手を引かれると止める人間はいなくなる。
狙撃手の当真と穂刈が目の前で景品を落としていくのを見ながら、これは私がやる前に全部終わりそうだなぁ、と感じる。
二人は花火セットを狙って撃ち落としていく。お祭りが終わった後も遊ぶ気満々だ。

「終わった後も遊べるな」
「それが狙いか・・・」

本部長へのつなぎよろしくというあたり本部でやる気らしい二人は満足げな顔で花火セットを小脇に抱えている。
場所取りを終えた頃にみんなと合流し、その直後に花火が上がった。
閃光、大きな音、燃え尽きて落ちるまでの一瞬が永遠と続くような連続打ち上げは見事だ。

「二階堂ちゃん、来てよかった?」

国近ちゃんがにこりと笑っていて、その顔が花火に照らされた。
彼女には救われっぱなしな気がして、でもなぜかそれが心地よかった。

「楽しいよ、ありがとね。柚宇」
「・・・すみれと一緒でよかったよ、私も」

忍田さんによってもたらされた新しい世界には、お父さんが送り出してくれた。
お父さんが送り出してくれた先では、知らなかったお母さんに出会えた。
知らなかったお母さんに出会った後は、いろんな感情を知って、同じように同じ場所を見る友人もできて、
あぁ、私って幸せなんだと思えるころにはこんなにも胸が暖かくて泣きだしてしまいそうになる。

実家にはあまり好意的ではない祖母、血のつながらない母と異母兄弟の弟。
血のつながりのある父は立場上私をかばえないから、私の居場所は母のために花を選んだあの温室だけだった。
悲しくて泣き出しそうなときも、さみしくて眠れない夜も、あの温室だけは私の居場所だった。

今は、仲間にも恵まれて、友達もいて。幸福すぎるくらいで、少し怖くなってしまうほど。

それでも今の私は、あの温室いた私よりずっとずっと幸せに生きているのだと感じる。
いや、今の私は間違いなく、あの頃よりずっと。

「じゃあ次は好きな人の側に居ないとね」
「柚宇・・・?」
「好きな人からもらったかんざし着けて今一番可愛いすみれをここだけなんてもったいないよ」

当真たちの花火もあるし、と言われてしまえばため息をつくしかない。
それ遊びたいだけでしょ、なんてあきれ気味に言ったらそれはついでだよー!なんていう柚宇がおかしくてちょっと笑ってしまった。
友達と一緒に過ごすのも悪くない、と感じながら打ちあがる花火がまた一つ燃え尽きて落ちていった。




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