03

白地に薄い桜柄の浴衣が見えて、何度目かわからないが見惚れた。
濃い牡丹色の帯が目を引いて綺麗にまとまっていた。

「あ、哲くん」
「悪い待たせた」
「大丈夫!今さっき来たばっかりだよ」

お兄ちゃんが送ってくれたの、と指さす方面から殺気を感じると案の定あのお兄さんだ。
事情が事情とはいえ、ある意味ご両親のご理解も得て一緒に居るので敵視だけはやめてほしい。
まぁ無理だろうな、とは思う。

「浴衣見つかったんだな」
「うん、今回はちゃんと自分で見立てて合わせてみたの。どうかな?」
「帯がひらひらしてて金魚みたいだな」
「金魚かー・・・っていうか荒船君は浴衣じゃないんだね」
「着てきたほうがよかったか?」
「似合いすぎてカメラのシャッターが止まらなくなるね!」
「辞めてよかった」

いつだったかの遊園地を思い出す。
たしかあの日はごついカメラでレンズを除かず無心でシャターを押しまくっていた気がする。
レンズ見たらシャッターチャンスを逃すからシャッターは基本見ないのが鉄則だよ、と言った時の目は真剣そのものだった。
その被写体はちょっと避けたいが、似合うと言ってくれるなら着てみたいと思ってしまうあたり弱い。

「早いけど行くか、縁日とか見るだろ?」
「見る見る!射的やりたいんだよね」
「狙撃手が本気になるなよ?」
「遊びこそ本気でやらなきゃ、哲くんも狙撃手転向後初射的やろ?」
「どっちが多く撃ち落とせるかやるか?」
「やる」

とりあえず順番に歩きながら見ていく中でヒーローのお面を買ったり、まったくすくえなかった金魚すくいをしたり、
そして真っ先に目に入った射的の出店に入るや否や、ごめんやっぱさっきの無し、と聞いたことのない真剣な声が聞こえた。
景品棚を見たら納得だ。

おもちゃのアクセサリー、おもちゃの光線銃。
その中にひときわ輝く特撮ヒーローの変身アイテムの箱。

佐鳥君から受け継いだ技を見せるときだね、と二人分の料金を払い佐鳥よろしく射的の銃を二丁抱えた春菜の目はランク戦や練習中よりはるかにまじだった。
結果は見事、一発で撃ち落として見せると残弾でソフビなども撃ち落としその手はあっという間に景品で埋まった。

「すげぇな・・・」
「佐鳥君にお礼言っておこう・・・ツインスナイプ役に立ったよ・・・!」

狙撃手トークページに投稿されるであろう戦利品片手の春菜を写真に収め、次に移動しようと開いているほうの手を引いた。
本命と言うべき変身アイテムだけを手元に、そのほかに撃ち落としたものは持てないのでと春菜は店主に返していた。

「いいのか?」
「うん、ほとんど根こそぎ景品取っちゃってたし」
「店主のおっちゃん青ざめてたもんな」

ボーダー正隊員の、しかもA級チームの狙撃手が狙いをはずすはずもない。
全弾命中は想定内の出来事だ。しかし、それにしても取りすぎ感は否めなくて景品棚から何もなくなったのはおもしろすぎた。

「花火見ながら何かあったほがいいか?」
「わたあめ!あとかき氷も捨てがたいし、あぁでも焼きそばも」
「食い意地張りすぎ、一つにしとけよ。そんなに持てないだろ?」
「あ〜・・・焼きそば!!」

すこし悩んでの炭水化物チョイスは色気がなさ過ぎて春菜らしい。
じゃあ買ってくるかと歩き出したその先だった。
まだ夕方に入りかけた祭り会場には人も増え始め、知らない人と肩がぶつかった拍子にあっ、と短い声が聞こえたのと同時に離れた手の感覚。

「春菜!」

あっという間に小さい春菜は人波に流されて埋まって行った。
白地に薄い桜の浴衣が見えなくなると嘘だろ、と思ってしまう。

とりあえず電話だ、と見慣れた番号を選択しかけてみるが応答はない。

不安が押し寄せる。
焦りが駆り立てる。
恐怖感が迫りくる。

寄せる人並みをかき分けて走り出せば、空はもう暗かった。




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