02

とうとう花火の日がやってきた。
着付けは当日本部で有志がやってくれると聞いてあっくんに見立ててもらった新品の浴衣を持っていくとそこにはすでに何人か集まっていた。

「あ、国近ちゃん」
「風見ちゃん来たね〜、私の着付け終わったらすぐしてもらえるからね〜」
「国近ちゃんがするわけじゃないのに・・・」

そうだよ、とため息交じりに言ったのは二階堂さんだ。

二階堂さんはすでに浴衣に着替えており、その凛とした姿に息をのむ。
すごい着慣れている感があって、しかも似合ってて、和服美人ってこういうことかぁ、と思っているうちに国近ちゃんの着付けも終わった。
ぴしっ、と決まった浴衣姿は可愛らしい。ちょっと苦しい、と言う国近ちゃんに浴衣の理想は寸胴だから、と言う。
聞けば胸の下にタオルなどを挟み、隙間を埋め、それから浴衣を着付けしてそのさい帯できつく巻くらしい。
なるほど、苦しそうだ。

「風見さん、どうぞ」
「あ、お願いします・・・」

同い年相手なのにどうしてか敬語になる。
近くで見れば見るほど大人っぽくてきれいな人だ。
髪に挿された簪がまたよく似合っている。
大人っぽいと好みも大人の人になるのだろうか・・・、やっぱり同級生とかは子供っぽいのかも。

「どうかした?」
「え、あ、」
「苦しかったら言ってね、調整するから」
「そうじゃなくて」
「? 何?」
「・・・国近ちゃんから聞いたんだけど、忍田本部長に片思いってほんと?」
「・・・くーにーちーかーちゃーんー?」
「えぇ、怒るの!?」
「隠してはないけど・・・」

あぁ、本当なんだ。
年相応に頬を染め、すこし恥ずかしそうにする姿は可愛らしい。
でも着付けの手は止めず、どんどん浴衣が仕上がっていく。
鏡の向こうの自分はいつもよりちょっと和風だ。

「やっぱり一緒にいると好きになっちゃう?」
「どうなんだろうね、でも気づいたら好きだった。」
「どんなところが?」
「・・・おいしい、ってちゃんと言ってくれたの忍田さんが初めてだったの」

帯を締め、きちんと結い上げてくれるとそこにはいつもよりちょっとかわいい自分がいた。
うん、結構可愛いかもしれない。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ自信が湧いた。

「それだけ?」
「私には重要だったの、それまではあんまり美味しいって言ってもらえなかったし。
義務感、というか、それまではただ与えられた仕事として作るのが当たり前だったから、だから残さず食べてくれて、美味しいって言ってもらえたのがすごくうれしくて。
料理って楽しいし、誰かに食べてもらえるってすごく素敵でうれしいんだって気づかせてくれたのが忍田さんだったの。」

結構単純な理由で驚いたけど、近寄りがたかった二階堂さんでも私と似たようなものなんだと思うと少しだけ距離感が縮まった気がした。
二階堂さんの生い立ちとかは全く知らないけど、中身は私と変わらない恋する乙女のようだ。
頬を染めて、でも嬉しそうに語る顔はまさに、といった感じで。

「わかるなぁ・・・」
「穂刈だっけ?」
「え」
「国近ちゃんが情報元ね」
「くーにーちーかーちゃーんー?」
「だって・・・ね?」
「絶対国近ちゃんが誰か好きになったら逆襲してやるぅ・・・っ」

すこし座って、と言われその場に座ると二階堂さんが目の前に来る。
櫛で髪を梳いて、髪を止めた。鏡を見ると髪飾りがついていた。

「ヒヤシンスとバラの髪留め、私には少し使いづらいからもらってくれると助かるんだけど、だめかしら」
「ヒヤシンスとバラ・・・」
「白いヒヤシンスは心静かな愛、黄色いヒヤシンスはあなたとなら幸せ。黄色いバラはあなたを恋します。
それぞれの花言葉よ。浴衣がモノトーンで刺し色がマスタード系だから挿し色に合わせて黄色いものを合わせたけど、似合っててよかった」

あぁ、今日の私。ちょっと頑張れるかもしれない。
髪が短いからヘアアレンジはできないけど、可愛いお花の髪飾りとあっくんに選んでもらった浴衣が背中を押してくれる気がした。

「・・・二階堂さんのこと、ちょっと誤解してたかも」
「よくされる」
「やっぱり」

でも中身は私と一緒だね、と言えば緩やかにほほ笑んで18歳だからねと言う。
告白してみようかな、と鏡の前の自分にも勇気をもらい立ち上がる。
今日の私は、いつもより少しだけ、それでも確実に昨日より、ずっとずっとかわいくなった気がした。




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