01

「これてよかった〜!」

久しぶりに桜庭と映画に行くと約束した日。
映画を見終えてフードコートに入れば桜庭は先ほどまで見ていた映画のパンフレットを広げた。
あそこがよかった、とかいつもの会話もなんだか懐かしい。

「特撮ヒーロー物はいいのか?あれ今日からだろ」
「うっ、本音を言えば見に行きたい・・・」
「じゃあもう一回行くか?」
「いいの?」
「テレビシリーズ見たけど面白かったから」
「え、っと、じゃあ」

はい、と鞄から差し出されたのは映画ポスターと同じ絵柄の前売り券だ。
断られるかも、って思ったんだけど二人分買っちゃった、なんてはにかむから心臓に悪い。

「今やってるやつ以外に、過去作で面白いのってあるか?」
「ありすぎてお勧めしきれないよ」
「真顔なあたり本当なんだな」

去年やってたやつは硬派で熱いストーリー構成がいい、
その前のシリーズはキャラクター一人一人の過去や未来が描かれていて重厚なものだったとか、語りだせば止まらないのも懐かしい。

「でもいいの?その、子供とか家族連ればっかりなんだけど・・・」
「春休みに体験してっからわかるし、遊園地のヒーローショーまで付き合ったぞ。俺」
「ここ数か月本当にありがとう・・・荒船君ホント優しい・・・」
「その代わりたっぷりお礼はもらうぞ」
「・・・な、内臓は売れないよ!?」
「何言ってんだ、夏休みの宿題。わかんねーとこあるから教えてほしいんだよ。いつでもいいから暇なときにでも」

そのうちボーダーにでも宿題を持って行ってラウンジで勉強会だな、
と思いながらドリンクを飲めば、じゃあ今日にでも見ようか?と聞かれ気管に飲み物が入ってむせる。
オーバーにせき込む俺に大丈夫?なんてのんきに聞くが、言ってる意味が分かってるのだろうか。

「さすがに今宿題持ってきてないぞ」
「? うん、さすがにそう思ってるけど・・・」
「あー・・・今日見てくれるのはありがたい、けど・・・俺の家に来ることになるぞ」

というか、おそらく俺の部屋でやることになる。
想像しただけで正直気がおかしくなりそうだ。
健全な男子なら好きな奴が自分の部屋に来る、ってだけでどうにかなるぞ。
桜庭も言ってる意味が分かったのか少し息をのんで考えるそぶりを見せた。

「・・・だめ、かな・・・?」

世の中の健全な男子でこれを断れる奴がいたら教えてほしい。
部屋に変なものを置いてなかったか心配になりながら、わかった、と返すことしかできないまま心臓がせわしく動いた。

「あ、ヒーローショーやってる!」

さっきまでのくすぐったい空気を払しょくするようなヒーロー番組の主題歌BGMが鳴ると、こっちの気も知らないで吹き抜けから見える下の階の広場で行われているショーの音につられて桜庭は駆け足で手すりを掴んだ。
下の階には幼稚園児から小学校低学年くらいの夏休みの子供たちが見えた。中にはコアなファンらしき大人もちらほら見えた。
各々憧れのヒーローにキラキラした視線を送っていて、隣にいる桜庭も同じ顔をしていた。

「桜庭はいつから好きになったんだ?ヒーロー」
「・・・ストーカーに遭って、ちょっと外が怖くなってた時。
ちょうどその時見てたヒーロー番組でね、ヒーローが新しく出てきた敵の幹部にメッタメタにされてて、仲間も全員倒れてて。
それでもそのときにレッドが傷ついた体で立ち上がりながら言ったセリフがすごくかっこよくて。気づいたら泣いちゃってた。」

まぁこんな沼地とは思わなかったんだけどね、と遠い目をするがでも嬉しそうでなによりだ。

「そのセリフ覚えてるのか?」
「覚えてるよー!学校にまた通いだしたときとか、くじけそうになったときとか、今でもその回を思い出して元気もらってる。」

にぱっ、って音がしそうなくらいはじけた笑顔が変わったBGMに反応してステージを見た。
赤い戦闘スーツ、名乗りの決め台詞と切れのあるポーズ。
そして、

『俺たちは誰のためでもない、俺たちが望む未来のために戦ってるんだ!
この世界を、お前たちの好きにはさせない!!』

会場のファンが湧いた。
手すりを握る桜庭の手にも力が入って、その目が少し輝いた。
あぁ、きっとあれが桜庭が立ち上がる力になったヒーローなんだ、と思うには十分すぎた。
ただの録音音声データの再生で、桜庭が輝いたのだから。

「やっぱりヒーローってかっこいいな・・・」

何度だって立ち上がる力を、ヒーローがいる限り桜庭は負けないのだろうと思う。
どんなに怖くて苦しくても、桜庭は桜庭の望む未来のために立ち上がって、

「お前もヒーローみたいだな」
「え?」
「写真撮りに行くか、撮影会やってるぞ」
「えっ、あっ、む、むりぃ・・・っ」
「遊園地でも撮らなかっただろ、憧れのヒーローとは一期一会なんじゃねぇか?」
「そうだけど!そうなんだけど!!!でも、そのっ、目の前で握手とか対面しちゃったら絶対挙動不審で通報される・・・っ」

いいから行くぞ、と手を引いて下の階に向かう。
ステージが近づくにつれ期待と希望と不安と絶望を混ぜた不思議な顔を桜庭はずっとしていた。

そんな桜庭が歴代のレジェンドレッドヒーローに囲まれたときぼろ泣きしたのは、また別の話だ。




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