100対0

・4年前捏造妄想if









有馬と初めて顔合わせした時の印象は整った顔と線の細い、美少年だと思った。

ボーダーに入って、トリガーの使い方を教えると本部長である忍田さんの元に何人か集まった中の一人で、
まぁ厳しすぎるというか、どこかネジがぶっ飛んだ内容の訓練に根をあげて日に日に人が少なくなっていく中、最後に残ったのが俺と有馬だ。
そこで改めてあいさつを交わしたのが最初。

「太刀川です、よろしく」
「有馬です、こちらこそ」

よろしく、と自然に差し出された手は細い。ほんとに弧月扱えんのかよ、って思うほどだったし、それ以前に男なのかよと疑うほどだ。
でも顔を見れば、まぁ女顔だが男っぽい。
手を握り返したところで、人数も減ったし手合わせしてみたらどうだ?と人数を減らした張本人の提案が出てきた。

「練習用トリガーでですか?」
「通常でかまわんぞ、お前たちは他の訓練生たちより筋がよかったし、戦いの中のほうが伸びそうだ。」
「わかりました、太刀川君もいい?」
「おう」

うわ、君付か。なんか背筋がぞわっとした。
めちゃめちゃ育ちがいいんだろうな、と思わせる立ち振る舞いが板についてるし自然だ。
こいつ絶対モテるだろ、生徒会とか入ってそうだし、部活じゃエース兼部長とかやってそう。漫画みたいに完璧な王子様。それがしっくりくる。

仮想訓練室を丸々一つ借り受け、忍田さんは操作ブースに行った。
設定された本数はやっぱりネジのとんだ100本勝負。おいおい、と思いながらも弧月を起動させた。
つもりだった。

-戦闘隊活動限界-
-太刀川ダウン-

電子的なアナウンスと一緒に見えたのは真っ二つの体だ。
有馬は弧月を抜いてすらいないように見える。というか、間合い的に斬られる距離じゃなかった。

「・・・こういう感じ、か・・・」
「今のなに?つーか始まっ」
「旋空弧月」

斬撃が伸びた。そのまま身に受けてしまったが、右腕だけで済んだ。
でもその頃には有馬が懐に入っていて心臓を一突き。
トリオン供給器官破損、太刀川ダウン、とまた同じ声で聞こえる。

「待てって!こんないきなり始まんの!?」
「・・・いきなりなのは当然だと思うけど」

弧月を鞘に納めつつ切れ長の目がこちらを捕らえた。
真剣なまなざしの奥に宿るのは命を懸けるような灯の色。
それだけで心臓が一つ潰れたような気がした。

「近界民が来たのだって突然だった。
ここはその突然の出来事に対処するために存在する場所だし、それに備えて私たちはいつだって真剣に戦う必要がある。」

また伸びる斬撃。なんかバリアみたいなのを張ってしのぎ、弧月を手にした。
でもその一歩は有馬のほうがはるかに速い。
抜き切る前に有馬に蹴りを入れられすっとばされ、崩した体制を見逃さず首を落とされた。

「私たちがいるのは、侵略者を殺すために存在する機関。それを忘れないで。」

何回殺されたのか。壁に表示される文字は有馬のほうに99と書いてある。俺はゼロ。
ずーっとぶった切られるわ刺されるわバラバラ殺人事件状態だった。

いいように切られて終わるのは嫌だ。
弧月を握り直して深呼吸した。

有馬はあのなんか伸びる斬撃と、なんかすげーはやく移動できる。
攻撃を受けると思ってないのかバリアみたいなのは使ってこない。
先制攻撃を仕掛けても、多分俺の実力じゃ剣ではじかれて終わりだ。なら、仕掛けられた攻撃を除けてすかさず刺し返す。

有馬の鋭い剣先が迫ってくる。
バリアと剣で何とか裁くが、手数が多い。
ほんとに俺と同時期入隊で、同じタイミングで忍田さんに学んだのかよ、と疑うレベルで圧倒的に強い。
右腕が切り落とされ、左足も失う。細かい攻撃が当たって、これが仮想訓練室の無敵ルール下じゃなかったら緊急脱出してるくらいだ。

迷いのない鋭い刃が迫る。その奥にある視線は、勝ちを確信した色。
悔しい。と思った瞬間、起動させたことはなかったが、あの早く動ける奴を足で踏み初めて有馬の間合い、懐に入った。

来ると思ってなかったのか驚いた顔をしたからどこか勝ち誇った気分だ。
その心臓めがけて弧月を突き出せば、小さく出した厚いシールドに邪魔され剣の軌道がぶれると、肩に刺さるだけになった。
有馬の弧月は俺の体をまた遠慮なしに真っ二つにして100本目が終わった。

あぁくそ、全然勝てない。

「終わってみてどうだ、二人とも」
「手も足も出なかった」
「弱すぎて話になりません」
「有馬は確かご実家が剣道場だったか?」
「は、チートじゃん!?」
「基礎ができてるってだけだから。基礎ちゃんとやれば太刀川君もこれ以上は動けるようになるよ」
「うわー・・・すげー上から・・・」
「剣道の全国優勝三連覇の保持者が素人に負けれられるわけないでしょ」
「チートかよ・・・」

っていうか、話し方まですこし女っぽいのか。
ニュアンスというか、響きがそんな感じだ。
今日は二人とも上がっていいぞ、という忍田さんの声によっしゃ、っと飛び上がる。
ありがとうございました、と礼をしてトリガーを解除すると横には制服のスカートが揺れた。

「・・・」
「・・・男だと思ってたかやっぱり」
「女なの?マジ?」
「女装癖がある男に負けたほうがよかった?」
「どっちにしても負けんのはやだ」

短い髪がさらっとして、耳を少し隠したが有馬は指でそれを耳にかける。
顔だけみりゃマジで男なのに、いや、つーか身長も俺と変わらないのか?
見れば見るほどイケメン、イケメンがスカート履いてる。不思議だ。

「・・・マジ女装みたいだな・・・」
「明日制服のスラックスが届くんだよ、スカートなれないんだ。・・・似合ってないのもわかってるから」
「? 似合ってないとかは」
「見苦しいの見せて悪かったね、じゃあまた。」

荷物を雑に持ち上げて有馬は先に出ていく。
なんか怒っているみたいだったが、まずいことを言っただろうか。
いや、それよりも、

「ちゃんと勝ちたいな・・・」

壁に表示されたままの100-0の文字はさすがに悔しい。
基礎、基礎か・・・と思いながら初めて次を考える。この時間が、今は前よりずっと楽しく感じたのだ。



100対0




End.


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シールドとかグラスホッパーとかを太刀川さんがちゃんと認識する前に使ったら【バリア】とか【なんかすっごい早い奴(飛べそうなやつ)】みたいに語彙力なさそうな認知でやってそうな気がした。




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