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6月になり制服が夏服に切り替わる。
半袖のセーラー服のさわやかさは可愛らしく夏も感じるが、私はどうしてもカーディガンを着るのだ。
私の後ろの席に座る幼馴染の目には触れてほしくないものが、夏服になると見えてしまう。それを隠したくて暑くてもカーディガンを着るのだ。

三年前の傷の淵が痛む。低気圧が雨を知らせるようで、傘を持ち出した。

学校について慣れた足取りで教室に向かうと早々に疎遠がちになってしまった幼馴染、三輪秀次と目が合った。

「おはよ、秀くん」
「おはよう」

目を伏せながら素通りされるとさすがにショックだ。
カーディガンを着ているのを見て苦い顔もする。
それでも挨拶を返されただけかなりマシなのかもしれない。

あぁ、ズキズキと左肩が痛い。
じめじめとした空気と低気圧が重なって、気分は最高潮に悪い。
これ以上ひどくなるなら保健室に行こう、と朝早くから決めるくらいにはつらい時期だ。

「おっはよ、凛子ちゃん」
「はよっす凛子〜・・・って顔色悪いけど大丈夫か」

B組の米屋と出水も揃ってあいさつだ。
おはよ、まだ平気だから大丈夫。と見え透いた嘘を言って右肩に引っ掛けたスクールバックの取っ手をぎゅっと握った。
無理すんなよ、とそれぞれに言われながら教室に入る。

数学の小テストやだな、とか、教科書忘れたとかありきたりな毎日を過ごす教室の自分の席に向かおうとすれば腕をつかまれてそのまま来た道を巻き戻る。
腕を引くのは秀くんだ。
めずらしい。ここ三年ほど、あの日から最近まで、めったにこんなことはなかった。

「秀くん?」
「保健室行くぞ」
「大丈夫だよ、今日はまだ調子いいし」
「調子いいって顔じゃない」

さりげなくスクールバックを持ってくれて、右手を引いてズカズカと歩いていく秀くんはいつの間にか大きな背中になっていて、それに気づいてしまったことがさみしかった。
三年前、私は秀くんにひどいことを言ったのに。
彼はそれでも私の些細なことに気づいてくれる優しさを持っていて、低気圧とは別の苦しさが胸を締め付けた。

秀くんは、私の幼馴染で大好きな三輪秀次は、私が嫌いなはずなのに私にやさしいのだ。

「とりあえず寝てろ、先生に言っておく。」
「ありがと・・・」
「気分が回復しないなら早退しろ」
「うん」

傷が痛い。三年前の傷が、ずっと痛い。




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