02

加古にみんなを任せて東さん、二宮と定時連絡を取った。
各班トラブルは無し、ということだから自分も戻ろう。
と歩き出した先だ、国近ちゃんと綾辻ちゃん、人見ちゃんが夏に浮かれたナンパ二名に遭っていた。

「おにーさん、私のツレに何か御用?」

とりあえず間に入って三人の無事を確認した。
大丈夫だった?と聞けば、助かりました、と安堵の声。怖かっただろうなぁ、と思いそれぞれ頭を撫でてあげて、みんなのところ戻って、ついでに二宮呼んできて。と頼む。

「ちょ、可愛い子たちだったのに」
「可愛いでしょ、だからこそお兄さんたちみたいな不埒な奴にはもったいないし釣り合ってないのよ。ごめんなさいね」
「こいつ・・・っ、いや、でも・・・」

睨んでくる男の目つきが変わった。
じっくりと見定めるような目で、まずいやつだ。と、直感する。

「こいつ癇に障るけど見た目はいいな、顔もいい」
「ちょっと男っぽく見えるけど、けっこうかわいいかもな」

ぐい、と左手を取られると痛みで力が抜けた。
怪我してんだ、好都合、とニヤニヤする顔が腹立たしい。
国近ちゃんたちが二宮に知らせてくれていたらそろそろくるはずだ。早く助けて、と思っていた視界の端から拳が飛んできた。

「にの―――・・・慶?」

手をつかんでいたやつが軽く後ろに後ずさるくらいの強さで慶が殴ったのだと気づいたのは少ししてからだ。
いつもぼんやりとかぽや〜、っとした顔ばかりしているのにランク戦でも見たことない怖い顔でずっとにらんでいた。

「っ、ちょっと慶!殴ること」
「こんなとこで絡まれてんなよ、こんなのどうにかできるだろ。小百合なら」

なんか違う。慶じゃないみたいだ。
イライラしてるのはわかった。でもこんな風に当たるのは珍しいどころか初めて見た気がする。
絡んでいた男たちとにらみ合っていれば、周囲から警察呼んだほうがいいか、とかちらちら聞こえ始め結局彼らがひいて場は収まった。
二宮が到着したのは今になってだ。

「おい、小百合。何もないか」
「あ、うん・・・慶もありがとう」
「・・・結局二宮かよ」
「慶?」

やっぱり様子がおかしい、とのぞき込めばどうしてか傷ついたような顔をしてる。
殴った手でも痛いのだろうか。でも握られた慶の拳に目立った外傷はない。
怪我はないみたいだ、と安心した矢先両肩をつかまれ視線が無理やり合わさる。
以前にもこうして視線を合わせたが、その時の顔によく似ていた気がした。

「慶?やっぱどっか怪我した?」
「二宮!二宮!!二宮!!!ずっと二宮ばっかりかよ!」
「は?」
「二宮に言えて俺には言えないのか?二宮に助け求めて俺には求めないのかよ!?
俺ずっと側に居たんだぞ!?そりゃ高校学校別だし、ボーダーくらいしか関わりなくて去年から大学一緒だけど学部違うけど!」
「慶、何言って」

どうしてこんなに怒っているのか、怒られているのか。
むしゃくしゃしているのは明白だが、その理由がわからない。
私が二宮を頼ったから、なんてたかがそんなことでここまで怒るだろうか。
でもそうとしか取れないことばかり言ってくる慶は、やっぱり痛そうな顔をしている。

「ずっと一緒にいたんだよ・・・なんで俺じゃないんだよ」

それ、私のセリフだよ。
ずっと慶の側に居たんだよ。ずっと慶の隣に居たかったんだよ。
彼女っていう一番甘くて穏やかな立ち位置に立っていたかったんだよ。

なんて言えるはずもなく、苦し紛れに慶の頬に手を寄せた。
左手じゃさっき開いたかもしれない傷がばれるので、右手だけで。
距離がこんなに近いのに、どうしても遠いのを痛感してしまう。

「・・・そりゃそうだよな」

伸ばしかけた手が止まった。
いやだ、その先を言わないでほしい。
嫌な予感が湿った熱い海風を冷たく感じさせた。

「お前二宮と付き合ってるんだし。」

諦めたような、悟ったような、どこか一人で完結してしまったように慶はそう言った。
破裂音がした。気づいたら私は慶の右頬を引っ叩いていて、隠していた怪我のある左手がじんわりと痛くなった。
何が起こったのだろう、と二人で顔を見合わせるが現状は最悪だ。

「・・・っ、お前怪我!」
「慶には関係ない!!」

やっぱり先ほど掴まれたときに開いていた傷口から血がにじんでいたらしい。
気づかれてしまい思わず叫んでしまったが、これはどう考えたもダメだった。火に油を注いでしまった。

「落ち着け、お前ら。
小百合、救護室行くぞ。太刀川は頭冷やしてろ」

二宮に手を引かれて場を離れていく。
左手がじんわりと痛くて、胸がずきずきと痛くて、なんであんなことをしてしまったのだろう、と青ざめていく思考の中でずっと、傷ついた慶の顔がちらついた。

慶と、もう二度と戻れなくなってしまうんじゃないか。
その恐怖感と不安がずっと続くこの痛みを増加させたように感じた。




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