Twitterや拍手ログ



連載の番外編だったり数年後妄想だったり、TwitterにあげていたSSまとめ。
各連載や会話文のみも混在。WEB再録にあたり加筆修正してます。

過去の拍手お礼のSSもここ。



【連載の番外編】
忍田主と唐沢さん
太刀川主と出水※数年後IF
太刀川主と太刀川
忍田連載未来IF NEW


【過去拍手お礼】
米屋とクラスメイトと傘
さんと狙撃手とラムネ




忍田主と唐沢さん

「あ」

エレベーター内の狭い空間、短く聞こえた声は忍田本部長預かりの少女だ。
視線を感じ左手を見てみると、ジャケットの裾から少しばかりはみ出て見えるワイシャツの袖口を止めるボタンが少し不格好なことになっていた。

「気づかなかったな」
「珍しいですね」

いつもはきちんとされてるのに、と付け加えられるとなるほど。やはり女性は目ざとい、と感じた。

「時間ありますか?」
「一応」
「じゃあジャケット脱いで、袖口見せてください。」

エレベーターを降りてすぐ、自販機横のベンチを指さすと言われるがまま従った。
カバンの中から携帯ポーチを出し、さらにそこからソーイングセットを取り出すと器用にボタンの糸を解き、針を新しく通した。

「持ち歩いてるの?」
「だらしないクラスメイトが服装検査の度に言われてるのを見かねて」

おそらく狙撃手の彼だろう。ずいぶん面倒見のいいクラスメイトだ。
そう思いながら縫い付ける手を見ると、かなり綺麗に、かつ素早く仕上げていて、これは確かに頼みたくなるなと感じた。
おそらく普段から―――保護者である忍田本部長のシャツのボタンなどもつけているのだろう。思えば彼の衣服でボタンが取れかかっていたことなどなかったように思う。

ボタンの裏で糸を結び、余った糸を切り落とすと出来ました。と離れた彼女はどこか満足気だ。

「ありがとう、これから営業だったから助かったよ」
「気になっただけですからいいですよ。お仕事頑張って下さいね」
「ありがとう、それじゃあまた」

そのうちお礼をしておこう。と、借りを作るのはしょうに合わない性格を再度確認しつつ、先程よりも止めやすくなった袖口のボタンを止め直した。







太刀川主と出水※数年後IF

有馬さんからラインが届いた。
有馬さんといえば我が太刀川隊隊長である太刀川さんと思いを通じ合わせて同棲をしている、今では太刀川さんの保護者のような人だがれっきとした恋人だ。

そんな有馬さんから同窓生の二宮さんや加古さんではなく俺個人に連絡とは何事だ、と思えば添付された画像で口に含んだジュースが霧吹きのように舞った。

床で大の字で眠る太刀川さんを囲うように引かれたロープ、ご丁寧に遺留品と思わしき鞄などの前にはナンバープレートを立てている本格ぶり。

【太刀川慶殺人事件】と打たれた文字と、犯人はおそらく報告書作成、と時間差で付け加えられたメッセージに腹を抱えた。

『これSNSにあげていいっすか?』

有馬さんはSNSをやっていないが、ボーダーの若い連中、学生は結構やっている。
迷惑のかからない程度にね、と了承を得て画像を保存する。
太刀川さんはSNSをやっているし自撮り写真もちょいちょいあげているから問題はないだろう、と有馬さんも思ったのだろう。

【太刀川慶殺害事件】
と、有馬さんにされたことをSNSでパクりつつ投稿。いろんな人からいろんな反応だ。
太刀川さん本人がこの殺害事件を知る頃にはこの殺害現場風写真がボーダー内でちょっとしたブームになったのだ。




太刀川と夢主
太刀川と夢主さんが閉じ込められたのは
「一緒に閉じ込められた相手にプロポーズさせるまで出られない部屋」です。
頑張って脱出しましょう。
#するまで出られない部屋

「プロポーズ」
「プロポーズ」
「プロポーズってなんて言えばいいんだ?」
「慶がプロポーズだと思う言葉で言えばいいんじゃない?」
「ん〜〜〜あ、小百合」
「はいはい」
「俺のために毎日餅を焼いてくれ」
「味噌汁じゃないんだ・・・」

開きました。



忍田連載未来IF

少しだけ寒い空気が肌を撫ぜた。

薄ぼんやりとまぶたを動かせば普段なら起きる頃には居ない、もう1人が見えた。
彼女が眠ってるのだとしたら、まだ早い時間なのだろう。
冬の冷えた朝の空気が肺を満たして身が震えた。
寒い。と、まだ覚醒しきれていない思考で布団を手繰り寄せ、自分と二階堂を柔らかな温もりで覆った。

そういえば、こうして寝顔を見るのは久しぶりのような気がする。
毎晩自分の腕の中で眠るのに、朝起きたら爽やかな顔でおはようございます、と朝食とコーヒーをキッチンで準備しているのだ。
おかげで朝、少しだけ、夢だったのではないかと毎回思っていることは内緒にしたい。

頬に流れる絹のように綺麗な髪を優しく耳にかけてやると顔がよく見えた。
安心しきったように穏やかで、幸せそうに眠る顔に愛しさが込み上げてくる。

できるだけ起こさないように、できるだけ布団がズレ落ちないように抱き寄せれば温かさも加わった。

あぁ、今日はまだ早い。
二度寝してもいいだろう。と、ゆっくりとまぶたをもう一度落とした。

幸せだな、と零れるように呟いて、愛しさを胸の中に閉じ込めた。
もう、寒さは感じなかった。






米屋とクラスメイト


今日は雨だった。

ざぁざぁ、でもなく。しとしと、でもなく。
何とも表現しがたい降り方で、おそらくざぁざぁとしとしとの間、ややしとしと寄りの振り方だ。
ぱっと見える世界では雨量は少ないが、傘のない俺としてはまぁ走って行っても結構しっとり濡れるな、といった感じだ。

一番近いボーダー本部直通通路までは走って五分ほどだろうか。
よし、走ろうか。と心許ないが気休め程度には雨除けになるスクールバックを抱えたときだった。
視界の横、綺麗な花が咲くみたいにぱっと開かれた明るい色の傘が目を奪う。
続いて長いつややかな黒髪、同じ学年だと分かる色の校章の線の色、クラスのバッチ。
米屋君?と聞き覚えのある声は学級委員長だった。

「いんちょーじゃん、今帰り?遅くね?」
「委員会があったの、ホームルームまでぐっすりだった米屋君は覚えてないだろうけどね」
「ぐっすりだったの見られてたのか、恥ずかしー」
「ぐーすか言ってるからみんな笑ってたよ?」

じゃあいっそ起こしてくれよ、と思う。

「入ってく?」
「へ?」
「ボーダー行くんでしょ?近くまで入れてくよ」

パステルカラーに白い花が咲いた傘が、まるで委員長のようだ。
明るすぎず、だけど女の子らしくて可愛らしい。でもちょっと一緒に入るには恥ずかしい奴だ。
俺の無言を察したのか、ちょっと焦ってごめん、と言いながら鞄をあされば水色で無地の折り畳み傘を渡される。
めちゃめちゃ新品ぽく折りたたまれている。というか新品だろう。

「こっち使って」
「これ新しいだろ、もったいない」
「気にしないで、相合傘するより恥ずかしくないでしょ?
それに米屋君が風邪ひいて休んだらちょっと寂しいし、それ思えば惜しくないよ」

ふわり、と微笑み、じゃあ明日ねと雨の世界に溶けていく委員長をただ見ることしかできなかった。
さみしい?俺が休んだら委員長がさみしい?って?

う、わ、やば、これ

何とも言えない感情と気持ちがあふれてきて、手元に残った水色の折りたたみ傘を開けない。
ボーダーに行こうと思っていたのに委員長を捕まえに駆けだしたくなるが、どんな顔して会えばいいかわからない。
あぁ、くそ、なんだこれ、やばい、

「好きになりそー・・・」

小さくつぶやいて折り畳み傘をつかんだままの手でにやける口元を隠した。
折りたたみ傘に隠すように挟んであったメモ紙を発見して、中身を見ていろいろ気づいてしまうまで3分ほどずっと下駄箱で立ち尽くした。





東さんと狙撃手とラムネ


夏と言えばラムネだと思う。

ガラスで出来た瓶に、ガラス玉が揺れる。
しゅわしゅわの炭酸が爽快な気分にさせるあの飲み物は夏特有だ。

本部に行くには少し早くて、じゃあ、と学校の帰り道に寄った小学生のころから通ってる駄菓子屋さんで恒例行事のようにラムネを買った。
ガラス玉を瓶に落とし込んで開栓すると、ぷしゅっ、という音と一緒に香る爽やかなにおいが肌に滲んだ汗を吹き飛ばすみたいだった。
のどを通っていく微炭酸は一瞬でも暑さを忘れさせてくれるし、爽快感がラムネの香りと一緒に鼻を通り抜けていく感覚は大好きだ。

あぁ、今年もラムネがおいしいな、と瓶から口を離すと突き抜けるような青い空が目に焼き付いた。

「ラムネとか飲むんだな」

やあ、と声を掛けてきたのは東さんだ。
狙撃手ポジションだから訓練の時によくお世話になっているほか、たまに勉強を見てもらっている。
東さんだって忙しい身であるにもかかわらず人材育成は手を抜かない、教官の鏡みたいな人だ。
そんな東さんがこんな住宅街の隅っこにあるような駄菓子屋に現れるなんて思ってもいなかったから思わず手に持っていたラムネの瓶を落としてしまった。
がしゃん、と割れる音がしてまだほとんど飲んでいなかったラムネがコンクリートにしみた。

「驚かせて悪いな、怪我は?」
「あ、いえ、大丈夫です!私こそすいません・・・!」

東さんが駄菓子屋のおばちゃんに塵取りを借り受けると、ハルちゃん女の子驚かせちゃダメでしょ、なんて言われていて、あぁハルちゃんって呼ばれてるんだ、可愛い、とか思ってしまう。
その間ひとつひとつ瓶だったガラスの破片を広い集めると、透き通ったガラスが太陽の光を揺らめかせて、夏だなぁなんて思う。

「はい、これ」
「あ、ありがとうございます・・・あ、お金」
「いいよ、さっきの割っちゃったお詫び」

ガラスを拾い集め、片付け終わった頃を見計らって東さんに差し出されたのは先ほど飲んでいたラムネと同じものだ。
東さんも同じものを手にしていて、横並びに座って一緒に開栓した。
ガラス玉が落ちて炭酸の吹き出す音、ラムネの香りが夏の風に乗って吹き抜ける。

「ハルちゃんって呼ばれてるんですね」
「昔からここのおばちゃんにはそう呼ばれててね、さすがにこの年だと恥ずかしい」
「可愛いじゃないですか、ハルちゃん」

ハルちゃん、と呼ぶたびに照れ隠しでラムネを飲む東さんがずっとずっと年上の男性に言うのもアレだが可愛らしくて、ちょっと笑ってしまった。

ラムネを飲み切るとガラス瓶に残されるのはガラス玉。
ガラス玉がキラキラと輝いて太陽を反射させるとまぶしくて仕方がなかった。

ごちそうさまでした、と東さんに言って立ち上がる。ラムネ瓶はちゃんと所定の場所に捨てると時間もちょうどいい。

「これから本部か?」
「はい、今日は夜間防衛任務なので」
「じゃあ俺と一緒か。一緒に行くか」
「はい!」

夏の香りがする。
一緒に飲んだラムネの味を思い出しながら東さんの隣を歩けば、日差しが照り付けた。
ハルちゃん、と呼ぶとやめなさいと言う東さんの顔が照れて赤いのもばっちり見えて少し楽しい。

「東さん可愛い」
「・・・俺はラムネを飲んでた君のほうが可愛いと思ったぞ。
ガラス玉落とすときわくわくしてるし、飲んでる途中から笑ってて」
「えっ」
「ラムネとか可愛いの飲むんだな、って思ったけどラムネを飲んでる姿のほうがずっとかわいかった」
「・・・あ!もしかしてこれ」

めちゃめちゃからかってますね!?という私の声に重なるのは東さんの笑い声。
そんな今日のやり取りをきっと来年の夏から、ラムネを飲むたびに今日のことを思い出すのかもしれない。




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