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有馬隊は今期、というか今年いっぱいランク戦に参加していないため防衛任務が多く割り当てられる。
主にB級で新設された部隊の防衛任務補助や、B級フリー隊員を寄せ集めた、その日限りの防衛任務チームの補助。
ざっくり言ってしまえば新人教育係みたいな役回りが多い。

隊長の有馬さん、狙撃手の桜庭、銃手の椿ちゃんは実際現場に出て指導に当たるけど、オペレーターの私はその分多く情報処理をする。
もちろん、新人オペレーターの指導もちゃんとしながら。

そもそもオペレーター担当は誰かの下について指導を受ける、ということ自体少ないのだが人によっては参考にと見学を希望することもある。
私は月見さんのオペレーションを参考にさせてもらってきたが、戦術も組み合わせながらの指示やデータ共有、提供のスピードとタイミングは本当に素晴らしいものだった。
あのレベルまでは到底及ばないが、頑張って追いつきたいものだ。

「今日はありがとうございました。」
「こちらこそ、どういたしまして」

でも次に参考にするなら私以外でお願いしたいなー、と思いながら新人を見送る。
オペレーターのくせに残念ながら語彙力が果てしなく乏しいので説明が下手なのだ。
つまり教えるのも下手だから、完全に見て覚えてくれと言った感じだ。
有馬隊のみんなはわかっているからか多少通じるが、それ以外には通じないためランク戦実況はほぼほぼノータッチで通ってきている。

今日の防衛任務も終わりだ。反省会と各自報告書の作成、提出も終わった。
スマートフォンを見れば、学生のみんなは放課後をどう過ごすか悩む時間だろうか。
ポコン、と音がして画面を指でスライドさせた。

今日これからカゲの家に集まってお好み焼き食べるよ(^∀^*)
花澄もどうだ?桜庭は来るみたいだよ( ´∀`)b

というあっくんからのメールだ。
お好み焼きか〜、というか桜庭が行くってことは荒船君がいるんだろうなぁ。
じゃあほかのメンバーも大体いつも通りか。なら行こうかな、と思った時だ。
曲がってきた人とぶつかって目がくらむ。ごめん、と聞こえた声は犬飼のもので、あぁ平気、と顔をあげたときだ。
視界がぼやけていて、ゆがんでいる。

「ごめん犬飼動かないで」
「へ?」

あ、と後ろからまた声がした。

「今のコンタクト?割れた音したけど」
「うそ、マジ?」
「ぼくの耳疑ってる?犬飼先輩の右足ですよ、コンタクト」
「あ、マジだ。」
「まじかー・・・」

声の主が菊地原なのはわかった。そしてコンタクト殺害事件の犯人が犬飼なのもわかった。
困ったぞ、と眉間にしわを寄せたらその眉間を犬飼にぐりぐりと押される。

「あはははは、風見ってコンタクトだったの?マジ?」
「オペレーターの仕事してるとき以外は全部コンタクトだよ、あー・・・やばい。」
「そんなに?」
「近眼と乱視の上に結構視力弱いからなんも見えない」
「眼鏡は?」
「メガネは調整出してて今手元にないんだよ。スペアとか替えのコンタクトは家にあるけど。」

雨の日の外を裸眼で歩く勇気はない。
とりあえずあっくんにはお好み焼きはいけないと何とか打ち込んで返信し、家までの最短距離を測る。

「俺送って行こうか?」
「は?」
「1人じゃやばいんでしょ?割っちゃったの俺だし」
「じゃあお願い、ぜんぜん見えなくて一人だとまずい」

迷っている場合ではない。
自宅に眼鏡やコンタクトがあるなら、家に帰るしかないのだ。
じゃなきゃ明日学校にも行けない。
荷物取ってくるからちょっと待ってて、と自販機の隣のベンチに座らされるとお詫びと称して自販機のソーダを渡された。
炭酸あんまり飲まないんだよなぁ、と思いながらプルタブを開けるとさわやかな夏のにおいがした。

「犬飼先輩、うるさくないんですか?」

菊地原は意外にもまだいたらしくそうつぶやいた。
オレンジジュースを買い、同じようにプルタブを開けて飲んだ。

「犬飼がうるさいのは今に始まったことじゃないよ」
「心臓のほうですよ」
「あぁ・・・」

じゃああのさらっとした告白は結構ガチだったのか。
ならなんであんな賭け事を持ち込んだのかますますわからない。

「菊地原は好きな子に好きな人がいたらどうする?」
「聞く相手間違えてません?」
「だよねー」

遠くから犬飼の足音が聞こえる。
じゃあこれで、と飲み切った空き缶をくず入れに入れて菊地原は行ってしまった。
菊地原の後ろ姿を見ていると丸い頭と明るい色がなんだかリンゴに見えてきて、あぁ誕生日アップルパイでもいいかも、と思い始める。
ごめん待ったー?と駆け寄ってきた制服姿の犬飼はいつもの見慣れた犬飼だ。
もらったソーダをほとんど飲めないまま捨てるのは忍びなくて一気飲みしたが少々苦しい。

「帰ろっか」
「帰りに寄り道していい?」
「ほとんど見えないのに?」
「元々お菓子の材料買いに行く予定だったの、責任とって荷物持ちしてよ」
「はーい」

パイ生地を作るのは骨が折れるから冷凍のパイシートを買って、この目で見極められるかわからないけどリンゴもちゃんと厳選しよう。

あれもこれもと考えるのは楽しい。
隣にいる犬飼のことはすっかり忘れてお菓子作りにすでに夢中になり始めていた。




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