02

「大丈夫か」

後ろから腰を抱かれるように引き留められ、後ろのほうに体重が移動する。
それでもしっかりと受け止め、そのまま倒れなかったのは助けてくれた男は妙にスマートさを保つ人だと思った。

「あ、ありがと二宮・・・」

聞きなれた声の人物が助けてくれたことに妙な気恥しさと感謝を感じながら礼を言うと、全身を上から下へと確認され、けがはないみたいだな、と納得される。
続いて遅れてきた駅員に、大丈夫ですか!お怪我はありませんか、と言われると、大丈夫ですと怪我がないことを見せつつ私の身代わりに木っ端みじんになったスマートフォンを心の中で供養した。

事後処理やなにやらで結局遠出はできず解放されたのはもう夜で、二宮はなんだかんだそんな時間まで側に居てくれた。

「いろいろありがとう二宮」
「かまわん、それより気を付けろと加古に言われたんじゃなかったのか」
「さっそく襲われると思ってなくて」

新しいスマートフォンを契約し、とりあえずネット上にバックアップしていた電話帳データから家族や友人らに諸事情で電話番号が変わったことを報告し、とりあえず落ち着いた。
なんだかどっと疲れた気がする。

「お礼に何か奢るよ、ご飯食べてこ」
「・・・お前、今日本部に泊まれ」
「え、今から?」
「仮眠室空いてなくてもお前の作戦室仮眠室みたいに設備整えてるだろ、しばらく本部に居たほうがいい」
「心配しすぎでしょ」
「・・・迅から言われた、それでわからないお前じゃないだろ」

未来予知のサイドエフェクト。
百発百中でないにしろ、わずかな可能性のかけらが彼の予知に存在したのは確かだ。
だとしたなら、

「待って、私の家、慶の彼女が監視してるって?」
「可能性がある」
「マジか」
「心当たりあんのか」
「監視されてることにはないけど、大学入った去年くらいに慶にオートロック解除のコードと合鍵渡してたし、
わりと最近慶が家に来て看病してくれたことあったから・・・まぁ見られてたら勘違いされちゃうなぁ、と・・・」

二宮が白い目で見てくる。
うん、うん、今ならわかる。警戒心がなさ過ぎたって!わかるよ!!

「とりあえず数日分の着替え買いに行くぞ、家に戻れない以上揃えとけ」
「二宮頼りになる〜・・・」
「じゃあ俺と付き合え」
「それは無理」

自然に手をとられ引っ張られると、外にいる間は身の危険を感じろ、とくぎを刺される。
少なからず二宮と居れば大きい事件に巻き込まれる可能性は低くなるからだろう。
強く握られた手の痛さが彼が心配してくれていることの証拠だとわかるし、それが本心だということも伝わってくる。
ありがとう、と今日何度言ったかわからないお礼を口にしながら二宮の横に少し近づいた。





数日分の着替えを買い、ボーダーの作戦室に来た。
大学の講義に必要な教材についてはほとんどの講義が一緒になる二宮のを一緒に見ながら講義を受けることにして、それでも必要なものは二宮が今持ってきてくれるらしい。
合鍵と解除キーを渡したのが30分ほど前。そろそろ私の部屋につく頃だろうか。
変なものは置いてないし、部屋は片付いていたはずだ。ついでに二宮なら余計な散策はしないだろう。

しばらく本部に寝泊まりする理由を一応忍田さんに連絡しておいたし、不安要素は特になくなったはずだ。
とりあえず体を動かしたい、とランク戦ブースに来たが。時間も時間だ。人は少ない。
今日はどうもうまくいかない日だ。
帰って二宮を待とう、とした時だ。戦闘の様子を映すモニターに慶が見えた。

【距離を置きたいって言ったらしいよ】

今更何を考えているのだろう。

モニターに映る太刀川慶は、私の知るボーダーの太刀川慶の顔をしている。
私がよく知らない大学の太刀川慶は何を考えているのだろうか。
どうもいまだにレポートが仕上がらないとわめいて餅を食べてる様子しか浮かばないから、私は本当にボーダーの太刀川慶しか知らないのだろう。

「彼女でもないくせになんなんですか、かぁ」

あの日言われたことがふとした時によみがえる。
彼女のくせに一番になれないくせに、と心の内でこぼしたが満たされるものなど何もない。

低いフラットシューズの靴底はペラペラだ。
新しいのを買えばいいのに買えないのは、どんなに性格が悪くてもあの子の可愛さが目に付くからだ。
低い身長、可愛い洋服、可愛いハイヒールのエナメルのパンプス。
私にないものばかりで眩しい。

いっそ【兄弟弟子でボーダー隊員の有馬小百合】じゃなくて、【村人A】とかにでもなっておけば、こんなこと考えなくていいんだろうなぁ。

ベンチに座りながら膝を抱えてつま先を見た。
履き潰してボロボロになったパンプスが心を少しすり減らしていった。




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