01

今年の梅雨明けは早く、7月に入って一週間ほどで開けると真夏の日差しが照り始める。
6月に夏服に衣替えした制服がなじむ季節になり、そして期末テストが目の前だ。夏休みも近い。

「夏休みって何か予定あるのか?」
「荒船君と映画見るほかは防衛任務しかないなー、あ、でも一度実家には帰るよ」

通学路で会うのは珍しく、そのまま話し込みながら学校に行くのは初めてだった気がする。
レンズの奥に光る瞳は関わりあうようになった春の頃より少しばかり輝いているように見え、数か月でも人は変わるものだと感じた。

「実家って東京の?」
「うん、ほんと一日滞在してすぐこっちに戻ってくるけどね」
「実家ならもっとゆっくりしていいんじゃねぇの?」
「そうなんだけど、あんま家に人居ないし。
元気だよーって顔合わせするくらいで事足りちゃうというか」

兄貴二人も仕事してるって言ってたか、なかなか都合が合わないのかもしれない。
離れて暮らす家族に会える機会だというのに、寂しいもんだと正直思う。
それを察したのか、でも週一くらいでお兄ちゃんから電話かかってくるんだよ?妹としてはちょっと心配だよ。と笑う顔は明るいし、心配と言いながらどことなく嬉しそうだ。
兄妹の仲の良さが伺えて、いい家族に恵まれているのになぜ三門市に越してきたのだろうと少し不思議になったが、それを飲み込んだところに花火や祭りの広告が目に入った。

「じゃあ花火とか一緒に見に行くか?」
「え、いいの?」

ぱちくり、と瞼が動く。
花火の広告ポスターを見ながら日付を確認した。

「この日ならまだ防衛任務のシフト動かせるだろ、合わせれば行けるんじゃないか?」
「じゃ、じゃあ一緒に行きたいな・・・荒船君さえよければだけど」
「こっちから誘ってんだ、決めるのは桜庭」
「行く!一緒に行く!へへへ、楽しみが増えたなぁ」

あぁ、くそ。なんだこいつ可愛いな。
都会育ちのくせに純粋で天真爛漫とか絶滅危惧種かよ、と頭を抱えながらスマートフォンのスケジュールアプリに予定を入れる。
白紙のカレンダーにこうして共通の用事で予定が埋まると少しうれしくなるものだ。

「とりあえず期末テスト頑張らないとね」
「桜庭はほとんど大丈夫だろ、結果張り出されるとき上から探すほうが早そうだ」
「ふっふっふ、お察しの通り上から10位以内に入るノルマを課してるから上からしか探さないのだよ、荒船君」
「何キャラだよそれ、ノルマ課してるってまたなんで」
「ノルマ達成したらほしいBlu-rayBOXを買う、達成しなかったら断捨離するってプレッシャーかけてやってるの。じゃないと制限なく買っちゃうんだ・・・。
おかげで成績は安定してるよ!やったね!」

言われてみれば10位どころか5位以内に入ってる印象しかない。
好きなものへの情熱もここまでくるとすごい。
それでボーダーでも活躍するのだから、多彩と言っていいかもしれない。

「荒船君は映画と花火以外は?」
「何もねぇ、それ以外はボーダーに居据わるつもりだな」
「そうなんだ」
「あぁ」

そろそろ攻撃手から狙撃手へのポジション替えを考えてる。
攻撃手のマスタークラスまでのメゾットは確立できた。
夏休みの間に狙撃手として形になるようにしたいところだ。

「というか、桜庭は俺とばっかり居ていいのか?」

学校の下駄箱で外靴と上履きを履き替えながら尋ねる。
考えたくはないが、別に俺と桜庭は付き合ってるわけじゃない。
それにここ最近雰囲気が変わったからか俺と同じように桜庭を見るやつも増えてきた。
誘われててもおかしくないのが現状だ。
ならさっさと告白して砕けてこい、とカゲに投げやりに言われたこともついでに思い出し忘れるためにちょっと強めに下駄箱とふたを閉じた。

「荒船君がいいな、映画も花火もボーダーも。」

わがままかな、なんてハの字に下がる眉毛にはにかむ照れ笑いしか見えなくなる。
天然なのかなんなのか、とにかく桜庭という小悪魔は数に限りのある心臓の音を早く消化させる天才らしい。
噴き出す汗を夏のせいだと思い込みながら桜庭の額にデコピンを一発入れて反撃するとやっとほかの生徒の他愛ない会話が耳に届き始めた。

「それ、あんまりほかのやつにやるなよ」
「荒船君以外に仲のいい子狙撃手界隈にしかいないよ」
「・・・友達すくねぇな」
「わー!傷ついた!か弱いガラス製の心が傷ついた!!」
「教室行くぞ」
「うぅ・・・はぁい」

か弱いガラス製の心であんなことをケロっと言えるほうがすごいだろ、と思う。
階段を上ってすぐにある桜庭の教室前で、放課後ね、と手を振りあってから学校が始まる。

早く放課後にならないか、と思いながら過ごす時間は思いのほか悪くない。
それでも今は目先の放課後よりも、すこし遠い夏休みのほうが恋しかった。




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