04

少しざわつくラウンジの中は隊服と私服の隊員が入り混じる。
おい、あの子どこの隊だ?とか、見かけないけどいい子だな、とか妙に浮足立つ。
ちらちらと視線を向けられる矛先を見れば、居心地悪そうに自動販売機で買った飲み物を取って退散する桜庭がいた。

「よぉ、桜庭」
「あ、お疲れ様荒船くん」

ラウンジを抜けて、各隊の作戦室に続く廊下まで行き声をかけると安心した表情で笑う。
人目が離れたところで声をかけて正解だったようだ。

「眼鏡外したんだな」
「前にボーダーでは外すって言ったしね。でも思ったよりちらちら見られたから恥ずかしくって。今日は作戦室に引きこもろうかな・・・」
「そりゃ可愛いやついたら見るだろうな、男って単純だぞ」
「荒船君も?」
「・・・まぁ否定はしない」

ふーん、という桜庭は髪を指で触りながら視線を外す。
そういえばボーダー内で声を掛けたのは初めてだったか。
最近は休日や学校でも比較的離すようになってきたし、こうして考えてみれば結構な時間一緒に居るものだ。

「荒船君の好みの子もやっぱり可愛い子?」
「性格よくて大人しいなら話しやすそうだとは思うな」
「そっかー・・・」
「お前は?」
「えっ」
「人から聞き出したんだ、いえよ」

えーっと、うーん、いや、と歯切れ悪く視線も泳ぐ。
まぁ好みと惚れたヤツって微妙に理想と食い違うよな、と思いながら普段作品への愛を語る桜庭を思い出す。おとなしくはないな。
熱がすごくて、愛にあふれてて、横から見てて好きなんだな、と本気で思えるほどの笑顔はおしとやかではないが眩しい輝きを放ってる。
あの熱中ぶりは見ていて気持ちがいいし、好きだ。

そんなことを思っている間に、言えません!ごめんなさい!と桜庭が走り出せば反射的に追いかける。
入り組んだボーダー本部内は追いかけっこにはもってこいだと、いつだったか緑川が言っていた気がする。

トリオン体に換装していてよかった。
生身の桜庭はあっさり捕まり、首根っこをひっつかんだ。

「ちょっ、荒船君早い!早い!!怖い!!」
「逃げられたら追うだろ!そりゃ!あと怖いは傷つくからやめてくれ」
「あ、ごめんなさい」

ひっつかんでいた手を放すと桜庭は息があがっている。
バドミントンで一回戦負けするレベルで運動ができないと言っていたが、よく狙撃手をできたな、と感じる。

「で、お前は?」
「わ、まだそれ続くの!?」
「そりゃそうだろ」
「笑わない?」
「お前のことだ、ヒーローみたいなやつとか言いそうだとは思ってるけど」
「バレてる」
「まんまか」

再び歩き出しもう視界には慣れ親しんだ荒船隊の作戦室がある。

「お前のためにヒーローにならなきゃいけない奴は大変だな」
「ふふっ、そうだね。地球の平和を守るヒーローになってくれないと」
「ヒーローついでにおすすめの映画のDVD貸すか?作戦室にいくつかあるんだ」
「あ、お願いしていい?荒船君のおすすめ全部面白いから見るの楽しくってついつい徹夜で見ちゃうんだよね」
「今度DVD持ち寄って見るのもいいかもな、映画館も楽しいけど終わった作品とかも楽しめたら―――」

ふと視線がかみ合うと時間が止まった気がした。
雨の日に相合傘した時みたいな感覚だ。

「いちゃつくなら出入り口から外れないか、荒船」

ただ違うのはここが作戦室の前で、穂刈が空気を読めなかったくらいだ。

「穂刈君お疲れ様」
「・・・桜庭か、眼鏡がないからわからなかった」
「あれ、狙撃訓練の時間?」
「まだだ、安心しろ」
「よかった」
「じゃあ先訓練行って来いよ、おすすめのやつ厳選しとく」
「そう?じゃあまたあとで」

手を振って別れると穂刈と一緒に桜庭は曲がり角に消える。
ヒーローにならなきゃだめか、と思いながら作戦室に入ると半崎も加賀美もいない。静かな空間だ。

「ヒーローになれたらな」

おすすめの映画を指先で選んでいく。
早く訓練なんて終わってしまえばいいのに、と思いながら。




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