03

その日は新しい戦い方で初めて迅に勝った。

「っしゃあ!」
「負けた〜・・・有馬さん新しい戦い方身についてきたんじゃない?」
「迅と忍田さんのおかげでね、でもこれはまぐれの一本。
慶と渡り合って勝つにはまず迅に確実に勝てるようにならないと」
「超踏み台宣言だ〜、まぁ付き合うよ有馬さん」


通常の弧月と試作品短刀弧月の二刀使い。
元は実家の剣道の裏芸の二刀使いをさらに改良したものだ。

元々抜刀術に長けた剣術ではあったが、旋空弧月の飛距離は生駒君ほどではなかった。
何度か教えてもらいながら打ってみたが、なかなか抜刀のタイミングとトリガー起動が合わず神業であることがうかがえた。

でも慶に勝てる可能性があるなら、どんな技でも身に着けたい。
そのためにこの一年を費やすと決めた以上、勝ってから終わりを迎えたかった。

「そうだ有馬さん、多分根付さんあたりに呼び出されるよ」
「メディア対策室に勧誘されるのか・・・」
「有馬さん美人だし美形だし対応真摯だし、メディア対策室としてはほしい人材でしょ。
戦闘員以外でボーダーに残るなら俺としてもメディア対策室はおすすめだな」
「なんで」
「俺のサイドエフェクトがそう言ってる」
「またそれか」

ずるいなぁ、サイドエフェクト。
私にもあればよかったのに、とないものねだりをしながら迅を見た。

「有馬さんはさ、太刀川さんのこと天才だって思ってるけど俺から見たら有馬さんも十分すごいよ」
「え、なに、急に」
「太刀川さんに勝てない自分を理解してて、それでも太刀川さんが勝てないであろう自分を見つけて極めていく。
そのための努力を惜しまない姿勢って十分すごいんだよ。
太刀川さんが天才なら、有馬さんは秀才。俺は秀才が勝つ未来を見たいよ、有馬さん」
「・・・ありがとう、迅。じゃあ、慶に勝てるまでよろしくね。」

弧月を抜いて突きつければ、あと10本、レイジさんのごはんが出来上がるまでにできる本数だよ。と言われ、本当にその通りにレイジさんが呼びに来るまで戦い続けたのだ。




本部に戻ると個人ランク戦ブースがざわついていた。
珍しくもないがなんとなく通りかかってみて様子を見ると、本当に珍しいことに二宮が慶と個人戦をしていた。

うわー、最初から見ておけばよかったー。と思いながらモニターを見ると二宮の横顔がチョコレートドリンクを買ったあの日と重なって、急に告白されたことを思い出す。

(すごく失礼だけど、二宮に惚れておけば楽だったのかもなぁ)

高校の時から二宮とは何度か噂になったし、二宮がらみで面倒なことになったことは正直ない。(まさか慶で面倒な絡まれ方するとは思わなかった)

「小百合」
「うぉっ、あ、二宮」

ぼんやりしたままモニターを眺めていたらいつの間にか二宮がブースから出ていた。
4-6で慶が勝っているあたり、今日は調子が良かったらしい。

「おつかれさま、珍しいね。ブースに顔出すの」
「気が向いただけだ」
「そっか、じゃあ私根付さんに呼ばれてるから」

そうだ。本部に戻ってきたのは迅の予知通り根付さんに呼び出されたためだ。
概要はわかっているものの本部上層部、メディア対策室のオフィスルームに行くのは少々緊張が伴う。滅多に行かないし。

「このあと防衛任務とかあるのか?」
「ないよ」
「・・・小百合」
「え、なに?」
「今夜の予定を聞いてきたやつが誰か理解してるのかって話だ」

そう遠回しでも言われてしまえば先ほどまで考えていたことが溢れ出す。
つい先日告白してきた男に今夜の予定を聞かれる、ということはそれなりにそう言った意味を持つのだろう。
付き合ってもいないから身の安全はある程度保証されているが、それも二宮の気分で変わってしまう。
さっきまでそのことを考えていたというのに完全に意識していなかった。

「た、玉狛で食べてきたんで・・・!」
「わかった、それと言っておくが意識されてないならされるまで詰め寄るからな」

完全に火をつけたらしい。
割と人の多い個人ランク戦ブース内で堂々と宣言されると逃げ場もなく、息が詰まるし顔も赤くなっていくのがわかる。
二宮から逃げるように駆けだして、とりあえず先ほどまであまり行きたくなかったメディア対策室に逃げ込もうと決めるのだ。




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