03

「風見って穂刈が好きなの?」

ゴールデンウィーク開け早々、目の前の他人の席に我が物顔で座る犬飼がそういう。
にまにまと笑いながらその笑みはどこは冷たく感じた。

「なによいきなり」
「穂刈が好きそうな可愛い格好してたのに何も言われなかったんだろーなーって」

こいつは塩を塗りこみたいのか。
塩を塗りこむのが趣味なら漬物でもつけといてくれと言えば、それおもしろくないよと普通に返される。

「まぁ好きだよ」
「けっこうあっさり認めるね」
「否定してほしかったの?」
「ううん、わかってることだし」
「だと思ったから否定しないよ」

お昼休みも半分終わった。
お弁当も食べ終えたので飲み物でも買おうかと立ち上がると離す気がないのか犬飼も後を追ってくる。
犬飼もそこそこ女子に人気だ。声を掛けられると必ず手を振るし、お前はアイドルかって対応をする。
でもどこか様子がおかしい。ゴールデンウィーク中に二宮隊がなぜかB級に降格になっていて、鳩原さんも隊務規定違反とかでボーダー自体を辞めていた。
おそらくそうなんだろうな、と思いながら自販機でカフェオレを二つ買い、片方を犬飼に投げ渡した。

「くれんの?」
「変な顔してるからね」

自販機のある場所は購買部のそばや、体育館横、中庭に入る手前と各所にある。
今回来たのは中庭に入る手前のところだ。
柔らかい日差しが降り注ぐ中庭を見るここは小さな休憩所扱いなのだろう。
安っぽいベンチがならび、雨を除けるように屋根がある。

昼休みも半分終わればここで休憩する人も少ない。
中庭の日当たりのいい場所で読書や、軽い運動をする生徒は見受けられるが梅雨に入る前の、まだ少し肌寒い季節にわざわざこの日陰で休む生徒はいなかった。

「俺さ、穂刈が好きな風見が好きだよ」
「は?」

持っていたカフェオレを落としそうになる。
冗談を言ってる顔じゃないあたりたちが悪い。
一足早く飲み終えた犬飼がくず入れにカフェオレの空き容器を投げ入れて、そのまま私の隣に来た。
わざわざ視線を重ねて、綺麗な顔で聞き間違いのないように、好きだよと言ってくる。

「失恋確定してなお告白するとかわけわかんない」
「失恋確定してないのに告白しないで幼馴染のポジションに落ち着いてる意味もわかんないよ」

痛いところをついてくる。
塩を塗りこむための傷口を作り、馴染ませるように言葉を重ねてくるのだ。

「だってあっくんは私をそう見てないよ」
「わかるの?」
「わかるよ、幼馴染だもん」

言い訳するように口から出る言葉は、犬飼が傷つけた場所から溢れ出す血みたいな感じだ。
ずっと隣で見てきたの。ずっとそばで感じていたの。だからわかるんだよ、と言えば言うほど胸が痛い。

「ね、俺と賭けしない?」
「またなにを・・・」
「風見が穂刈に告白して、それから一週間以内に返事なり話を蒸し返されたりしなかったら俺と付き合うっていうの。」
「なんで」
「こうでもしない限り告白なんてしないでしょ?」
「そうされてもしないわよ」

同じように飲み終わった残骸をくず入れに投げ入れて教室へ戻る。
同じクラスに帰るのだから犬飼も同じように歩く。
私の左側ではなく、右側を意識して。

「告白してメリットがあるよ。
そのままうまくいく可能性と、仮にうまくいかなくても意識してもらえる可能性、告白に対してアクションがあればうざい俺と付き合わなくていいことにもなる。」
「だから、なんでそれを犬飼が提案してくるの」
「勝算があるからだよ、二分の一だけど確率高いだろ?」
「あっくんが一週間告白に対し何も動きがなかったとして、私があんたと付き合ってそれであんたはいいの?私あっくんが好きなままだよ?」
「いいよ、さっきも言ったけど俺は穂刈が好きな風見が好きなんだよ。失恋確定した者同士、恋人ごっこで寂しさ埋めようよ」
「・・・ろくでもない」
「穂刈に告白するタイミングは風見に任せるよ。でも告白したら連絡頂戴。その日から一週間カウントダウン開始ね」
「ちょっ、勝手に話勧めないでよ」
「これでもさ、俺真剣だよ」

右手を掬い取られて、ゆっくりと手のひらが合わさり、指がからめとられる。
指先にキスを落とされるが、その姿はイメケンゆえに絵になる。

「好きだよ、風見」

カフェオレ御馳走様、とぱっと解放され教室に戻ると同時にチャイムが鳴る。
一方的に賭けの舞台に上がらされ、深い溜息を履いたまま午後の授業が始まるのだ。




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