03

普通校と週替わりで行われる体育祭はいつも梅雨の時期だから必然的に体育館を利用した球技大会となる。
バスケ、バレー、バドミントンの三種目しかないがそれなりに白熱はするものでそれぞれ事前に申請した種目に打ち込んでいる。

この日ばかりはクラスや学年も関係ない。
授業がなく、自分の出番じゃなければほぼ自由時間みたいなこの日は生徒たちが羽を伸ばすいい機会だった。
俺としてもボーダー以外で思い切り体を動かせるこの日は嫌じゃない。
登録した種目はバスケで、順調に勝ち進んでいた。

昼休憩をはさんで決勝戦が行われるところまで勝ち進み、トーナメント表を見て次の対戦相手を確認する視界の端で見慣れた姿が見えた。

「桜庭?」
「あ、お疲れ様。荒船君」

眼鏡をかけ受付に居るのは桜庭だった。
そういえばすれ違う他学年の生徒が受け付けの子がかわいいと言っていた気がする。
確かに今日の桜庭はいつも通り眼鏡をしているが体育祭だからか髪を縛っていて雰囲気が少し違う。

「荒船君のチーム決勝まで行ったんだね」
「おう、桜庭は?」
「バドミントン一回戦負けだよ。」
「一回戦?運動苦手じゃないだろ」
「どれに参加するか悩んでるうちに苦手なバドミントンしか残ってなくて・・・」

あぁ、なるほど。
と、納得すればでも荒船君応援できるから負けてよかったかも、と笑う。
それはずるいだろ、と思いながらとりあえず桜庭の額に軽くデコピンしておいた。

「いたい」
「変なこというからだろ、あー・・・昼飯は?」

昼休憩をはさんでからの決勝戦だ。
今日は弁当じゃないから食堂だが、誘ってみるくらいいだろうと誘えばまだだよ、と好感触だ。よし。

「俺食堂なんだけど一緒にどうだ?」
「いいよ、私も今日お弁当無いから食堂行こうと思ってたの。
あと十分くらいで交代だから待っててもらっていいかな?」
「わかった」
「またね」

軽く手を振る桜庭はかわいい。だいぶ感情に振り回されている感はあるが、桜庭が他のやつに誘われるよりはるかにましだ。
改めて桜庭と合流し食堂に向かえばそこそこ込み合っていて、それぞれ食券で買ったものを受け取り席を探せば向かい合って座る席が見つかる。

ほどよく他の席から離れていて助かる。
桜庭も眼鏡をはずして買ったうどんをすすれば少し安心した顔だった。

「桜庭は眼鏡外さないのか?」

俺が買ったのは塩ラーメンとチャーハンだ。
塩ラーメンを食べながら桜庭に聞けば外してるよ?と言われるが、そうじゃないのは多分わかっているんだろう。目が泳いでる。

「まぁ理由があるんだろうけど、俺は眼鏡外してたほうがいいと思う」
「そ、そうかな・・・」

机に置いた伊達眼鏡のフレームを指で撫でて物思いにふける。

「じゃあボーダーに行く時だけ外そうかな」

しばらくして出た言葉がそれだ。
たぶんいろいろ考えて、頑張れるところを探したのだろう。

「私ね、都会にいた頃モデルの仕事ちょっとしてたんだ」
「・・・もしかして俺無理言ったか?」
「あぁ、眼鏡かけてる理由はそんなに仕事と関係ないよ、もうそっちの仕事はしてないし。
でもそれが理由でちょっと嫌なことに遭って、こっちに越してきたの。
眼鏡かけてるのはなんとなくで、そんなに深い理由はないよ。
ただ手軽に違う人になれる気がして依存しちゃっただけで。」

伊達眼鏡を遊ぶ手を止めて、眼鏡を持ってそれを俺にかける。
荒船君も眼鏡似合うね、と笑う顔に影がにじんだのはそんな話を聞いたからだ。

「無神経だった。悪い」
「気にしないでよ、それに荒船君の側なら眼鏡をはずしてもいいかなって思えてるの。」

食堂の騒がしさに隠れて告白されたことは桜庭の笑顔に反比例している。
桜庭に眼鏡を返すようにかけ返してやれば、ありがと、と正しい位置に直す。
見慣れた学校での桜庭だ。

「来月期末テストあるな」
「その次は夏休みだね」

前に話していたアメコミヒーローの映画の公開日は夏休み前日の終業式の日だ。
早く学校も終わる日で、公開日に見に行こうと約束した。
桜庭も覚えていたみたいで、早く見たいね、とわくわくした顔でほっとする。

夏が近い。梅雨が明ければ、高校最後の夏が目の前に来るのだ。





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -