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「クランチキャラメルビターチョコレートフラペチーノトールサイズでホイップとソース、クランチキャラメルのトッピング増量でお願いします」

大学の講義が終わり、この日は防衛任務もなく完全にオフ、しかもオープンキャンパスの手伝いもなしだ!と背を伸ばしているとその手をつかまれ誘拐されたのは有名コーヒーチェーン店だった。
私の横でよくもそんな甘ったるいものを、と冷めた目で見る誘拐犯こと二宮匡貴はアイスコーヒーを注文し受け取ると店内を後にした。

「何も言わず連れ出すなんてめずらしいね」
「話すことがある」
「大学とボーダー内で出回ってる噂だね」
「お前が流したとは思ってないが、発信源くらい知ってそうな気がしてな」

梅雨だというのに珍しく晴れたからそのまま街をふらつきながら話せば、予想通りの内容が来た。
信号待ちの人混みの一部に溶け込みながら先ほどのドリンクを飲むとひんやりとのどを通ってい行く冷たさが心地いい。

「発信源、多分慶の彼女だよ」
「なんでそんなところからわざわざ」
「なーんか慶の彼女に敵視されてて絡まれるんだよ。
多分、慶や周囲の認識をすり替えて私が慶に興味ない人間として扱われるようにしたいんだろうね」
「面倒で迷惑な女だな」
「巻き込んでごめんね」
「いや、いい。不用意に告白されなくなった」
「くっそこのイケメン」

街の中でもちらちら見られてるのに我関せずな顔は色恋などに興味がないからだろう。
実際高校の時から告白に呼び出しされるたびに嫌そうな顔をしていたし、自分のテリトリー外のことには無関心そうなイメージがある。
わずらわしいことを避けるための傘になった私とのうわさは、そういった意味ではウェルカムなのだろう。

慶には付き合ってるのか、と真っ向から聞かれ否定はしたが、腹の底では何を思っているのだろうか。
もしこうして今二宮と一緒に居るところを見られたら、否定したことも嘘だと思われるのだろうか。
だとしたら、慶はどう思ってくれるのだろうか。

(やきもちを焼いてくれたらいいのに、とは思うけど無理だろうな)

「お前はいつまで太刀川が好きなんだ」
「ブフォッ」

余計なことを考えているうちに信号は青になり歩き出すタイミングで吹っかけられれば思わず飲みものを吹き出してしまう。
前の歩行者には被害なし、大丈夫だ、よかった。
二宮はなにやってんだ、とハンカチを差し出してくれたがその元凶はお前だ。
ハンカチを受け取ると同時に飲み物を預けて口周りを拭いた。洗って返す、と鞄に入れて飲み物を再度受け取れば信号は赤に戻っていた。

「で、どうなんだ」
「どうなんだ、って言われても。きっとずっと好きなんだろうな、って思うよ。」

慶は知らないだろう。
女の子扱いなんて生まれてこの方ほとんどしたことなかった私を痴漢から助けた上に、女の子なんだし気ぃ付けろよ、と言ってくれたことなんて。
忍田さんのもとで一緒に修行してて、ずっと私が勝っていて、慶が頼りなかったときにそういう風に助けてくれたことがすごくうれしかったことなんて、きっと慶は覚えてないだろう。

そのときからずっと慶が好きだった。
どんなに抜けてても、ちゃらんぽらんでも、戦闘面以外全然頼りないし手のかかるダメ男だけど、それでも慶が好きだった。

「・・・俺にしておけ、と言えない顔だな」
「・・・は?」
「本格的に失恋したら来い、くそ甘ったるい飲み物くらいおごってやる。」
「・・・ちょ、二宮!?」

二宮から向けられる言葉のまろやかさはうぬぼれとかではなく、そういったものだと分かった。
どんどん顔が熱くなっていっていく。
ぐん、と手を引かれた先は青信号の横断歩道。

夏が近いぞ、と言われているような高い空が広がった気がした。




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