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シンプルな白黒ボーダーシャツにカーキ色のブルゾンを合わせて、今日は動くから、とボトムスはショートパンツにした。
靴はスニーカーかスリッポンで迷うが、ソックスや全体のバランスを見てハイカットスニーカーをチョイスする。
リュックに財布や貴重品を突っ込み、スマホはポケットに入れた。

腕時計の時間は予定時刻の10分前。
少し早いだろうか、と思いながら最終確認。
玄関に備え付けてある全身鏡で身だしなみを整える。よし。

行ってきます、と声をかけて家をでてすぐ目の前。
穂刈、と書かれた表札の下にあるチャイムを鳴らすボタンを押し込んだ。

「花澄ちゃんいらっしゃい、篤あとすぐで来ると思うから入って待ってて」
「お邪魔します、あ、これお母さんからです。昨日フロランタンを焼いたのでおすそわけです」
「わ、ありがとう!花澄ちゃんのお母さんのお菓子美味しいからうれしい〜!」
「待ったか、悪い」
「大丈夫だよあっくん」

それじゃあいってきます、とこっちにもあいさつしゴールデンウィークのお昼前の空の下にもう一度出る。
今日は天気がいいし気温も心地いい。
晴れてよかったね、と彼の右手側を歩くのは物心ついた時からの癖で馴染んだ場所だった。

「悪いな、付き合わせて」
「いいよ、こうしてあっくんと出かけるのも久しぶりで楽しそうだったし」

大型複合施設内にボルダリングが体験できるテナントが入ったらしく、そこに行くらしい。
最初は荒船君や半崎君を誘ったが断られ、影浦君や村上君も誘ったらしいがそれぞれ先約があったらしい。
そこにちょうどよく収まったのが私だ。

体を動かすのは嫌いじゃない。
それでも久しぶりに、仮にも片思い相手と出かけるのであれば少しくらいそれらしい場所に行きたかったという思いが無きにしも非ずだ。

「そういえばあっくんは新学期になって何か変わった?」
「変わらないな、特に。花澄は?」
「犬飼がまた同じクラスだったってことくらいだよ」
「変わってないな」
「一学年上になっただけだね」

バスに乗り込むと結構な乗車率だ。
まぁ映画館やショッピング、ありとあらゆるものが詰まってる場所にゴールデンウィークに行くっていうのだからこれくらいは予想の範囲だ。

「お前が気になるって言われたな、クラスのやつに」
「いや誰かわかんないし」
「見かけたらしいぞ、一緒に登校してるときに」
「通学の時に見かけた子が気になるって中々チャレンジャーだね」
「ないのか、興味」
「ないよ、まったく」

だって私が好きなのはずっと昔からあっくんだ。
驚くくらい長い間片思いを育ててしまって、若干こじらせつつあるのを自覚してるのだ。
そりゃ念願かなって付き合えたらいいけど、

「なんだ」
「ちょっと寝ぐせついてる」
「マジか」
「うん、マジ」

この様子じゃ希望は薄い。
良くも悪くも幼馴染。おうちがお向かいさんの同級生。
高校からは学校も別になって、登校こそ一緒だが、それ以外だともうボーダーくらいしか顔を合わせない気がする。

一緒に居すぎて意識なんてしてもらえないんだろう。
今日だって動きやすさを重視しながら結構可愛いコーデを決めて、ちゃんとヘアセットもしたけどかわいいの一言を聞かせてもらえないのだ。

チームメイトの桜庭にでも今度買い物に付き合ってもらおうか。
結構可愛い服やアクセサリーを置いてるお店を知ってるので一緒に行くと散財してしまうが。

「ボルダリング終わったらさ、ちょっと参考書とか見ていいかな?」
「いいぞ、こっちも付き合わせてるしな」
「ありがと」

まぁ、これもこれで悪くない距離感だ。
心地よい温泉のような温かさで、互いの本心が見えない緩やかな距離感。

きっと、悪くないのだ。




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