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6月初旬、その日は梅雨入りを知らせるニュースを見た。
すでに6月に入って何戦かランク戦が行われ、また見たい映画も互いになくたまにメールをやり取りするだけにとどまる日々が続いた。

今日、有馬隊は防衛任務で桜庭は学校を特別に休んでいる。
同じクラスではないがいくつか選択授業で同じ科目を選択していたから、その分だけノートを貸すかと言ったところ「ありがとう!助かる〜!(>ω<*)」といつもの明るい文面だ。
妙にほっとしながらスマホを閉じてポケットに突っ込めば荒船、と呼ばれる。
教室の出入り口でクラスメイトが呼んでいてその奥に見知らぬ女子生徒がいた。
クラスメイトの何人かにヒューヒューとからかわれるが、何を期待しているのか。

しとしとと振り続ける雨がうざったく感じる。
この雨の中、トリオン体とはいえ今桜庭は防衛任務かと思うと何かねぎらってやりたい気持ちにもなる。

女生徒から伝えられた気持ちには答えられないと言って教室に戻る途中だ。
荒船、ともう一度呼ばれると後ろには犬飼だ。学校で声を掛けられるのは珍しくないが妙なタイミングに少し驚いた。

「さっきの子いいの?」
「知らん奴と付き合うほうがおかしいだろ」

昼飯一緒に食おうよ、と食堂に向かう道すがら目ざとく見ていたのか聞かれる。
そもそも、もう好きな奴がいるのだ。桜庭以外には考えられないほどに。

「荒船ってさ、彼女作る気ないの?」
「犬飼はとっかえひっかえって聞いたけどどうなんだよ」
「とっかえひっかえってひどいなー、っていうか彼女いたことないんだけど」

犬飼は変な噂が付きまとうタイプだ。
噂が捻じ曲がるなんて、この狭いコミュニティではよくあることだった。

「桜庭と付き合ってるの?」
「なんで」
「先月の第三金曜、二人そろって自習室入って、そろって出てきたし」
「見てんなら声かけろよ」
「あんなに仲良かったっけなーって」

可愛くなったよね、桜庭、と犬飼が言えば指先で割り箸が折れた。
こんな反応をしてしまえば犬飼の格好の餌食だと分かっていたのに、体は正直だった。
予想通り、犬飼はにんまり顔だ。

「そっかそっかー荒船がねー」
「その顔やめろ」
「っていうか今まで接点なかったじゃん、どうして急に?」
「うっせぇ」

新しい割り箸を割って、行儀悪いが早食いをする。
これ以上犬飼と付き合えばどんどんぼろが出そうだったのがつらくて逃げる。

食堂を出てすぐ、ポケットに突っ込んでいたスマホが震える。
メッセージの送り主は穂刈で、

今日カゲん家でお好み焼きだね(・ω<)★
良かれと思って桜庭も呼んだら来てくれるって!(^∀^*)<ヤッタネ!
他のはいつものメンツだよ〜☆彡

という愉快な文面だ。まて、まてまてまて、良かれと思ってってなんだ。
というかいつアドレス交換したんだ!?狙撃手でそういうグループがあるのか?

「カゲん家のお好み焼き?俺もいきたいなー!」
「お前カゲに嫌われてんだろあきらめろ」
「えー」

犬飼は正直来ないでほしい。余計なことを言われそうで気が気じゃない。というかなんで桜庭は来るんだ。野郎しかいないんだぞ。
頭を抱える内容ばかりで気分がぐるぐるする。あぁ、くそ、一つ一つが大事件だ。

とにかくノートを貸すための口実だ、と無理やり気分を落ち着かせて放課後を待つ。
雨はまだやまない。




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