04

防衛任務のシフトの関係で進学校とは週変わりで行われる学校行事は授業がない分気持ちは楽がだ、そんなに楽しいものではない。
国近ちゃんと最低一種目、というルールを打破するべく二人三脚に参加した後は参加するクラスメイトの応援をしつつ程よく日陰に引きこもった。
梅雨入り前の少しだけ湿気の混ざったぬるい風が遠い空の向こう側から初夏を連れてこようとしているのがわかる。

「二階堂ちゃんさー、どうして本部長なの?」

先生の目を盗んで携帯ゲーム機に夢中になる国近ちゃんからそう聞かれ、飲んでいた飲み物から口を離した。
彼女は変わらずゲーム画面を見ていて、なんとなくで言った言葉であることがうかがえた。
飲み物を片手にグランドにもう一度目を向けながら周りに人がいないこと、とくにボーダー連中がいないことを確認すれば今みんなリレーでいないよ、と言われる。
抜け目ない、さすが国近ちゃん。

「まぁ、15も上だし。一回りどころじゃないし、私は子供で、あの人は大人だし。
それでも、あの人じゃなきゃダメだったんだよ」

叶いっこないとわかっていても、あの人をあきらめることはできない。
あの人の目に私が映らなくても黒トリガーさえあれば、背中くらいは眺めていられる。
いざというとき、あの人のたえに戦える刃になれる。それでいい。その力さえあれば、いいのだ。

「わかんないなー、それ」
「なにが?」
「好きなら素直に好きでいいじゃん、あの手紙くれた子もそうなんじゃない?」

先日告白してきた子は、今リレーで走っていた。
真っすぐに、思春期の高校生らしい、いや。たぶんそれより真っすぐだったと思う。

「・・・あの子にはリスクがなかっただけよ。崩れる関係性もない、失うものが少ない。
むしろ告白することによって意識してもらえるかもしれない可能性のほうが大きかった、リスクよりメリットのほうが大きい子と比べるものじゃないでしょ。」
「スレてるなー」
「屈折していく状況なんだからしょうがないよ、ほら。なんか終わるっぽい。いこ。」

フォークダンス苦手なんだよね、という国近ちゃんの手を引いてグランドにいく。
種目がそんなに多くない学校行事はお昼を少し回った程度で終わる。
最後のフォークダンスさえ終われば、今日は少しボーダーに行って、それから夕飯や明日の準備をしよう。

今日は忍田さんが返ってこれるみたいだから何を作ろうか、圧力鍋を買ったし、サバの味噌煮とか、と考えていれば次に回ってきたパートナーは先ほど国近ちゃんとの話題に上がった後輩の子だった。
確か、出水と同じクラスの佐川君だ。

「せ、んぱ」
「手、いい?」

手をとり決まったステップを踏む。
他のペアも同じようにふむステップが、彼はどことなくぎこちない。

「あの、先輩。俺まだ先輩が好きです」
「答えられないって言ったけど?」
「ボーダーしか考えられないなら、俺もボーダーに入ります」
「ボーダーは遊びじゃないよ、そんな気持ちで入られても困る」
「どうしてそれを先輩が言えるんですか」

どきり、とした。
私がボーダーに居る理由も、確かにこの子の言う通り変わらないのかもしれない。
母の残した黒トリガーの適合者じゃなければ、それこそこの子と全くの一緒になってしまう。
私に咎める権利はないのかもしれない、けど、この子は普通の高校生だ。

「ボーダーに入って何がしたいの」
「先輩を振り向かせます」
「そんな理由じゃ落とされるよ」

重要なのはトリオン量だが、黙っておこう。そもそも目視でわかるものでもない。

「好きにしていいけど、入っても何も変わらないことだけは教えておく」
「じゃあ変えられるように頑張りますね」

手を放し、移動する。
彼は微笑んだままだ。

「やっぱりメリットだらけじゃない」

私には、無理だ。




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