03

ゴールデンウィークが終わりいつものように学校が始まる。
体育祭が近くなるとあって今日は参加種目を決めるため、時間が割り当てられていた。
ボーダー関係の人たちはリレーとかに駆り出されるが隣に座る国近ちゃんは我関せずと言った顔で机の下でゲームをしているし、前の席に座る当真は机に脚を上げて行儀が悪いが競技には乗り気だ。
席は多少は慣れているが、今さんも必要最低限は参加するようだ。

「二階堂はどうするの〜?」
「国近ちゃんは?やるの無いなら一緒に二人三脚でもやる?」
「お、いいね〜。ゆるーくやっても怒られなさそう」
「二階堂は足早いだろ、リレーにしとけよリレーに」
「やだよ、走るの嫌いだし。当真こそ狙撃手のダッシュ力見せつけなよ」
「狙撃手は走るのが仕事じゃねーんだけど?」

私と国近ちゃん二人三脚エントリーで!と言えば、黒板が埋まる。よし、最低限一種目は出たぞ。

「ね、そういえば今朝下駄箱に入ってたのは?」
「え、なにそれ俺知らない」
「二階堂の下駄箱に古典的だけど威力大なラブレターがあったんだよ!ね、読んだ?」
「読んだよ、放課後来てくださいって書いてあったけど私昼から防衛任務で早退なんだよね」
「わー・・・差出人のタイミング悪ぅ・・・」
「まだいいよ学年クラス名前わかってるし、次の休み時間行ってくる」
「公開処刑か」
「これはひどい」
「公開処刑は言いすぎでしょ・・・」

あぁ、でも出水とか米屋のクラスだ。あの二人にはちょっとネタにされるかもしれない。
読み終えた手紙の文字を指でなぞれば、これを書いてくれた人がうらやましいと感じる。
素直に好きな人に好きだと言えて、感情をぶつけることができて。
私は読んでももらえないものを、見るはずのない場所において満足しているというのに。
この人がうらやましい。思いを伝える勇気をもって、それができる場所にいる。

休み時間を告げる鐘がなり、ちょっと行ってくると教室を出る。
階段を上って二学年のエリア。三年がいるのが珍しいのかちょっとちらちら見られる。

「あれ、珍しいっすね二階堂先輩」
「出水ちょうどよかった、同じクラスにいるえーっと、佐川君?呼んでもらえる?」
「あー、了解です。公開処刑ですね」
「それA級界隈で流行ってんの?」

短い休み時間、手早く終わらせたい。出水はすぐに差出人を呼んでくれた。
背の高い、好青年だ。あぁ、なんか野球部に居た気がする。野球部のクラスメイトに何度か好みの人を聞かれた気がしたがこういうことか、と見た。

「あ、あの、放課後って書いたんですけど」
「ごめんなさいね、私今日のお昼で特別早退だから放課後行けないの。どこか場所を移したほうがいいかな?」
「い、いえ、ここでいいです!あの、お返事をいただけたら・・・!」
「・・・気持ちはすごくうれしい、けど私は今ボーダーのほうが大切だから気持ちには応えてあげられない。ごめんね。」

かなりいい子みたいだ。彼なら私じゃなくてもいい人が、それこそ普通の高校生がいるはずだ。
それじゃあ、と今朝下駄箱に入っていた手紙も彼に返し二学年のエリアを後にする。

あぁ、私もいっそ告白して玉砕してしまえば諦めがつくのかもしれない。
窓に映りこむ顔はいつだったか林藤支部長に見せてもらった写真の中の母によく似てる。
忍田さんはこの顔に母を見て、私を見てる。

不毛だ。

なんて不毛なのか。
隠し続ければ隠し続けるほど、私なんて見てないと分かっていくのに。それでも、忍田さんが好きで、好きで、側に居たいと願って、それだけでいいと言い聞かせるのに、欲張りそうになる。

胸が苦しい。泣きたくなる。張り裂けそうになる。忍田さんが好きで、しょうがないと、体が叫ぶのだ。

息をのみ込んで、吐き出せばある程度リセットされる。
私はまだ、二階堂すみれでいられる。

間違うな。私が忍田さんの側に居られるのは、黒トリガーだから。
あの人が必要な時力を行使できる、その力だ。
子供の私が大人になってもあの人の側に居たいと願うとき、もう私にはこれしかない。

そのために、感情はすべて殺して。
積もり積もっていくあの人への思いは、見て見ぬふりをして。




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