04

待ち合わせの時間より少し早い時間に駅に着くと、すでに桜庭が待っていた。
いつもワンピースを好んで着ていたが、遊園地に行くとなるとさすがに少し動きやすそうなカジュアルな感じだ。
柱に寄りかかりながら小説を読む姿は様になっていて、遠巻きにちらちらと視線を集めていた。

「悪い、待ったか?」
「おはよう荒船君、大丈夫だよ。ちょっと早く目が覚めちゃったから、散歩ついでに早く着いちゃっただけだから」

手にしていた小説にしおりを挟んで鞄に入れると行こうか、と歩き出す。
目的地までは意外と近くて電車で一時間ほどで着く場所だ。
なじみのある遊具がそろった、普通の遊園地で、テーマパークというにはほど遠い。
それでも休日ともあって地元の家族連れが目立った。

「結構人入るんだな」
「私も久しぶりに来たよ、荒船君は?」
「ガキの頃ぶりくらい」
「じゃあ私のほうが回数こなしてるね、何乗ろうか?ショーまでたくさん時間あるし」

施設パンフレットを広げ現在地を確認し、ショーの場所と時間をすでに確認したらしい。
一番遠い場所にあるのが観覧車、そこから出入り口側に向かってゴーカートやジェットコースターがいくつか、お化け屋敷とか懐かしのミラーハウスもある。
本当に懐かしい、といいたくなる年季の入ったものばかりだ。

「ジェットコースターいける口か?」
「余裕!」
「ここ結構充実してるな・・・全制覇行くぞ」
「ついていきまーす!あ、絶叫系もそろってる」

歩き出した瞬間だった、左手が捕まれ驚いて振り向けばやらかした、みたいな顔をして桜庭は手をすぐ離した。
少しだけ惜しいと離れた場所に風が当たった。

「ごめん、つい癖で・・・お兄ちゃんとかすぐ手をつなぐ癖が・・・!」

ブラコンみたいでごめんね、あ、荒船君がお兄ちゃんみたいって言ってるわけじゃないの!と慌てすぎて何の弁解をしてるかわからなくなってきていて、思わず笑った。
どんどん桜庭の顔は赤くなる、すごいかわいい。今この顔見てるのが俺だけだと思うと、優越感もやばい。

「手、繋ぐか?桜庭迷子になりそうだし」
「わぁぁ・・・迷子癖も見抜かれたぁ・・・恥ずかしい・・・」
「お前の兄ちゃんの気持ちわかる気がする、目が離せない」

桜庭の右手を握って、今度こそ歩き出す。
いつもより近い距離がくすぐったいが、悪い気はしない。むしろいい。

「じゃあ改めて、とりあえずあっちのジェットコースターからでいいかな?」
「おう」

ジェットコースターを中心にいくつかアトラクションを楽しむと、桜庭的にメインイベントであるヒーローショーの時間だ。
屋外ステージにはちゃんと席があり、桜庭はステージ前から5列目くらいの場所に席を選ぶといつもより大きいトートバックからごついカメラを取り出して満足げな顔をしていた。

「それすげぇな・・・」
「防衛任務とかランク戦なくて、こういうのに行ける日はひたすら撮ってるんだよね・・・ここ屋外ステージだし結構広いから会場からヒーローくるタイプだし張り切ってしまって」

少なくとも一、女子高生が持っているであろうカメラとは程遠いそれは本格的な撮影までこなせそうな代物だった。
しかし事前に聞いていたものの、ここの設備は素人目にもそろっていることがうかがえた。
多分ボーダーの活躍に目の肥えてる人が多いから普通のショーじゃ集まらないんだと思うよ、という桜庭の言葉になんとなく納得はする。
トリオン体ならビル爆破をバックに飛び降り放題だ。

そうこうしている間にショーが始まる。
確かにアクションはかなりキレキレだ。桜庭が内容の展開にもテンションを上げていて、テレビシリーズを見ているファンにも何か来るものがある内容だったらしい。
ワイヤーアクションに炎の演出、一瞬で変わる装備品や展開は子供だけじゃなく特撮を卒業した身にも楽しさを感じた。

「すっごくよかった・・・!」

カメラを置いて恍惚の顔で言う。
目が輝くのは本当に好きだからなのだろう。映画館で初めて話した時と同じ顔だ。

「あんだけ動けるっていうのはすごいな、客席もステージ扱いで臨場感があった。」
「でしょ!屋外ステージの強みなんだよね・・・!遊園地によってはそういうのはやってないとこもあるんだけど、でもこのすぐそこにある危機感がまたよくって」

すっごくよかった、とまた同じことを言っている。
先ほどまでヒーローたちが活躍したステージにはヒーローとツーショットを撮ろう、といった催しがされている。
ショーとは違った賑わいがほほえましく見える。

「そろそろいこっか」
「いいのか?ツーショット」
「人としての顔を保てないからやめておくよ」
「結構感情が顔に出るもんな、桜庭」
「え、うそ!」
「まじまじ」

映画が始まる前のわくわくしてる顔や、見てるときにハラハラしてる顔、終わった後の満足げな顔、おいしいものを食べたときの顔も、全部顔に出てるのだ。
この数か月の間で、結構感情豊かで普通のやつなんだと何度も気づかされた。

「なんか恥ずかしい」
「俺はいろんな桜庭は知れてうれしいけどな」
「またさらっとそういうこと言う・・・」
「ほら、アトラクション全制覇だろ?」

左手を差し出して、それを桜庭が握る。さっきよりも流れるように、自然に掴まれたそれは程よく温かい。
緊張して指先が冷えてないか、急に心配になる。
隊のやつらとか、カゲとか鋼が見たら笑うんだろうな、と思いながら乗っていないアトラクションに向かって歩き出した。




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