02

「やっほ〜、揚げせん、食う?」
「食べないからさっさと手合わせしようか」

やっぱりね、と言いながら慣れた足取りで仮想訓練室に行く。
途中で会ったレイジさんにお邪魔するので、といいトコのどら焼きを渡した。

「風刃のほうがいい?」
「お願い」
「前に言ったとこ調整してみた?」
「エンジニアにお願いして、ちょっと改良した。」

トリガーを起動させて試作品を見せると、なかなかといい感じだ。
長さ、重さ、厚み、悪くない。

「オプションで幻踊も入れてみた。詳しいことは米屋に少し教わってきたけど・・・」
「いいんじゃないかな、その弧月なら間合いに入ったとき役に立つと思う」

通常の弧月よりも少し短い、短刀の弧月を手に息を吐く。
A級特権のトリガー改造は米屋の槍型の弧月や、木虎の風車のように回すことのできるスコーピオンのような改造ができる。
弧月とスコーピオンの二刀流も考えたが、左右で重みや握り心地の違うものを扱うのは中々に難しかったので弧月を改造する方向に舵を切ったのだ。

「二刀流戦法、うまくいくといいね」
「そのためには風刃を抑えてあんたに勝たないとね」
「まだ勝たせないよ、俺のサイドエフェクトがそう言ってる」




「そういえばまた靴替えた?」
「ヤなとこばっかり目が行くね迅は」

ざっと三時間ほど経っただろうか。
迅のサイドエフェクト通りに一本も勝てないまま手合わせが終わり、このまま玉狛支部に泊まっていこうか考えていた時だ。
ローヒールのパンプスからとうとうフラットシューズになった靴に目ざとく気づけば、気にしなくていいと思うよ、と言ってくる。

ソファに座り新しい靴を見る。
コンプレックスの塊みたいなそれは可愛げのない、普通のものだ。

「気にすんな、って言ったって無理でしょ。175cmもあるし」
「まぁ俺とほとんど変わんないね」
「高いって言ったってもうちょっと低くてもよかっただろって、ほんと」

せめて160cm台なら、わぁ、モデルさんみたい!で終わっただろうに。
高い身長でいいところは男顔負けのフィジカルで戦えることくらいだろうか。それ以外の私生活面でいいことはない。

慶だって、あの子みたいに小さくて可愛い小動物みたいなのがいいんだ。
(中身はめんどくさそうな女のモデルパターンだったけど。)

「人並みに女の子らしいことしときゃよかったかな」
「どうしたの急に」
「ボーダー入る前は剣道漬けだったし、ボーダー入ってからは戦い漬けだったし、考えたら好戦的すぎる生き方をしたな、って。」

か弱きを守り悪しきを砕け、みたいな父を持ちそう育てられ、自分が女の子だということも自覚しないまま、女の子は守るべきだ、って意識し続けた結果がこれだ。
私が守るべき女の子は、私だったのかもしれない。そう気づく頃にはもう遅くて。

「十分女の子だと思うよ、有馬さんは」
「慰めてくれるの?」
「俺じゃ役不足でしょ。
それに俺じゃない人に言ってほしいセリフだろうからね。だから言わないよ」

本当に迅はずるい。
サイドエフェクトのせいとかじゃなく、ほしい言葉を的確に読み取って、伝えられるというのに伝えない。
立ち位置と距離感を間違えない。

「今日やっぱり帰るよ」
「泊まらないの?」
「家に帰るのは遅いから本部に行く」
「送るよ」
「いいよ、危ないけど危険区域通っていくし」
「だからだよ」

そう?と言えば、これだもんなぁ、と言われるが心当たりはない。
同じくらいの身長ではあるもののそれでも少し大きい迅の手が頭をぽんぽんと叩くように撫でる。
危険区域に居るのは近界民だけじゃないってことだよ、とそのまま手を引かれた。




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