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二階堂が生けた花がある、と聞いて午前中の仕事を休んで会場に向かえば生け花展はにぎわっていた。
今日と明日の二日間のみの開催、ゴールデンウイーク期間ともあって入場に多少の時間を要した。
駆け足で会場に入ったからか、少し熱く感じてジャケットを脱いで手に持てば会場の人波に流される。

とりあえず二階堂の作品だけ見て帰ろう。
ゆっくり回っても残念ながら花には疎く、感受性もそんなに豊かではない。
それでも二階堂の作品は目を引いた。

白と桃色のカスミ草、白のマーガレット、そして蕾のままの月下美人。
ほぼ白で統一された作品は穢れなど知らない世界で、ただひたすらに柔らかな光を受けてそこにあった。

「すみれの作品になにか?」
「あ、いえ」

そんなに熱心に見ていただろうか、と腕時計を見ると5分ほどだ。じっくり見る人であれば、そのくらいは見ているだろうという時間。
その様子を見て女性はあぁ、そうじゃないんです。と前置きして、入り口から真っ先に他の作品も見ずにここにきて、眺めるでもなく見惚れているようだったから、と笑う。

その行動はどう映っているかはわからないが、少なくとも二階堂の作品目当てではなく、すみれ個人の作品だけを見に来た人に映るだろう。

まるで参観日に来たみたいだ。
ならさしずめ、この作品は作文だ。

「すみれはこれを生けた後すぐ帰ってしまっていないのですが」
「え、帰ってしまったんですか?」

二日も休暇を取っているというのに、実家に帰ったわけじゃないのか。
でも作品を作ったということは、実家とのわだかまりが少し溶けたのかもしれない。
なら、それはいいことだ。

「白のカスミ草は【永遠の愛】【清らかな心】、桃色のカスミ草は【切なる願い】、
白のマーガレットは【恋占い】【真実の愛】【信頼】西洋では【秘密の恋】という意味もあります。
月下美人は【はかない恋】使われた花の、花言葉です。」

まるで誰かに宛てた手紙みたいで、見ているとくすぐったい気持ちになるんですよ、と嬉しそうに笑う。
意味を聞いてもう一度それを見ると、作文なんかではなく下駄箱や机に忍ばせて読んでほしいと願うラブレターのようだった。
それなのに、秘密の恋と来たものだ。大人への憧れだと、諭せなくなる。彼女は十分にそれを理解していると痛感させられた。

「月下美人は、昼間に咲くことはありません。あの子の思いが咲くことがあれば、きっととても素敵なんでしょうね」
「・・・そうですね、彼女には、」

思いを遂げてほしい、と思う。でも、その相手は自分じゃないほうがいい。
年の近い、同じ歩幅で歩ける人がいいに決まっている。
同じものを見て同じように綺麗だと言える人のほうがいい。

「解説ありがとうございます、これで失礼します」
「あら、もっと見ていってくださっていいんですよ?」
「そうしたいのですが、何かと仕事がありまして」
「そうでしたか、ではあの子によろしくお願いしますね」

この作品が誰に宛てたものか、この人にはわかっていたようで気恥しくて頬をひっかく。
思春期特有の真っすぐさを受けとめつつ、彼女が彼女の母親と別人であると痛感させられるのだ。




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