03

「トリオン器官が昨年より縮小しています」

細かくデータの書き込まれた資料を手に医者の声を聴く。
昨年計ったデータより大幅に数値が下がっているトリオン量は想像よりずっと少なかった。

「このままだと隊員として戦うことは難しくなっていくが、どうする。有馬」

師匠である忍田さんに相談がある、と告げ二人きりになった空間は息苦しい。
それでも私が素直に相談できて、それを受け止めてくれる人はこの人くらいなのだろうと思ったのも事実だ。

トリオン器官の成長が止まったのは17歳。
トリオン器官が縮小をしているのではないか、となったのは18歳。
19歳で縮小していることがデータで証明されて、20歳になる今年、ボーダーで活躍にするには難しくなるのは遠くない未来だと発覚した。
短すぎた。それでもきっと遅くはないだろう、と真っすぐに忍田さんを見た。

「慶に勝ちたいです。」

最後に勝ったのはいつだっただろうか。
全力で戦っても勝てなくなってしまったのが悔しくて、たくさん練習して、それでも勝てなくて。
最後に慶に勝てるなら、この一年をささげていいと思った。

「隊はどうするつもりだ?」
「結成する段階で隊員には伝えてあります。
各員、それぞれ解散後のことを考えているので、問題はないと思います。」
「そうか」

桜庭は技術開発部に入りたいと言っていた。
椿は玉狛支部派だからフリーになったら玉狛に行くと言っていた。
風見はオペレーターだ。新規チームについていくかもしれないし、それまでは本部所属のフリーオペレーターだ。
みんな私よりしっかりしている、頼れるすごい隊員たちだ。

「わかった、時間の空いたときできるだけ稽古をつけよう」
「ありがとうございます」
「慶には伝えるか?」

トリオン器官のことだろう。
首を横に振り、慶には最後まで言いません。と伝える。
その意図を読み取ったのだろう。忍田さんはそうか、と優しくいって頭を撫でた。

「あまり無理をするなよ」

この人はやはり、私のお師匠様なんだ。
言わずに気づくし、察しても口にはしない。
忍田さんの弟子でよかったと、もう一度深く頭を下げた。

それが今年の一月の話だ。

「―――今日はここまで」
「ありがとうございます」

トリガーを解除して壁に設置された時計を見ると夜の9時を過ぎているころだ。
どおりでおなかが空いている。飯でもどうだ、と言われるがこれ以上忍田さんを引き留めるのは二階堂に悪い気がして大丈夫です、と笑う。

「慶には見せてないのか?その二刀流」
「トリガー自体もまだ試作中ですし、防衛任務や普段は今まで通りですね。
教えたら意外性無くなっちゃうんでまだ秘密です」

玉狛の迅にも個人戦を頼み手合わせをしてもらっているし、トリガーについても相談に乗ってもらっている。
こうした修行を始めて三か月。まぁまぁ形になってきてきたところだ。

忍田さんと別れ、遅めの夕食でも食べようとラウンジに向かう。
エレベーターに乗り、慣れた道を行けば時間も遅いのにラウンジはにぎわっていた。
これは時間がかかりそうだ。隊室に戻って帰る準備をしたほうがよさそう。

「あっ、有馬さん!」
「出水?こんな時間までいたの?」
「助けてください!」

誘拐するように手を引かれ行きついた先の太刀川隊作戦室では死んだようにレポートに埋まる慶がいた。
あぁ、なるほど。とため息を吐き出す。

「昨日やったレポートが最後じゃなかったの?」
「他の忘れてた〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

どんどん消え行く声にあきれるしかない。
後輩の隊員まで借り出すのは重症だ。
とりあえず出水に帰っていいよ、と言って慶の向かい側に座る。
残っているレポートの内容を確認すると私のとっていない講義の物だ。
これ誰か取ってたかな、とスマホから助っ人を探す。二宮は防衛任務中、加古は他の剣にスカウトに行っていた気がする。
堤はどうだろうか、あぁ堤もとってないやつだこれ。
風間さんは―――これ以上迷惑かけられないなぁ・・・。諏訪さんじゃ役不足だ。

「やばいな、これ」

作戦室に溶け込んだ言葉に沿うように、慶はレポートを完成させられなかった。




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