「おはようなまえ」
「おはようトム」
「体調はどうだい?」
「んーまあ悪くはないかな。でもトムが来てくれたからもう元気」
そう言ってふふと笑う彼女が愛おしい。なまえならなにをしても許せてしまうと考えているあたり自分はなんてなまえに甘いんだと思う。
でも日に日に病がなまえの体をゆっくりと蝕んでいっているのだ。今も。最強の魔法使いと自称していた自分が恥ずかしくなってしまう、最愛の人が病に蝕われているのにただ見守ることしかできない自分が情けない。
「今日はなにする?出かけるかい?」
「うん、トムと日向ぼっこしたい」
「いこうか」
「うん」

車椅子に乗ったなまえを押しながら暖かい光、優しい風の吹く森の中を進んでいるとなまえはその綺麗な目に映るいろんなものに興味深々である。
そんななまえも愛おしい。
「トム、この辺でいいんじゃない?」
「そうだね」
「ねえトムはいつもこんな風景を見てるの?」
「うんそうだね」
「いいな…私起きてから目に映るのは白だけだよ。トムが羨ましい。毎日こんなに美しい景色が見れるなんて…聖マンゴの角の病室って窓すらついてないじゃない?本当に退屈だよ。」
「…」
「あっ…ごめんなさい、せっかくトムが会いに来て外に連れてきてくれたのに…」
「ううん、いいんだ。なまえ、僕の前ではわがまま言っていいから。僕の前では甘えていいから。だから…」
「ふふ、なんでトムが泣きそうなの」
「ありがとう。こうやって一緒にいれるだけで満足」
僕は一瞬前の自分の行動を後悔した。死に一番近くて怖いのは彼女なのに僕が彼女を不安にさせてどうするんだ。
「ねえ、トムお仕事はどうなの?」
「なにが」
「こんな平日の昼間から私と散歩なんてサボりなんじゃない?」
「はは、なまえと散歩は仕事みたいなものだよ。こっちが本業ならいいなって思う。」
「いつもありがとうね、トム」
「なにその別れみたいな言い方」
「トムだってわかってるくせに」
「…」
「いいんだよ、私が一番わかってるから。あのねトムと出会えて本当に幸せだよ。ホグワーツの図書館で毎日毎日単細胞って言われながら勉強したこととかトムが素直にならないから色々言われながら祝った誕生日とか思いが通じた日大事な思い出だよ。」
「今年も僕の誕生日祝ってくれるよね?」
「まだ春だよ?この前祝ったばっかりじゃん」
「約束して」
「嘘はつきたくないからやだ」
「なまえ。言いたくはないけどさ君は僕の言う通りに僕のそばにずっといればいいっていってるじゃんたかがバカの単細胞がいくら考えても僕よりいい考えが浮かぶと思ってるのそれは大間違いだよふくろうもいもりも僕の指示がなければパスできなかったと思わないの?あっごめん…」
「トム変わんないね、安心した。本当に私がふくろうもいもりもパスできたのはトムのおかげだよ」
僕には彼女を抱きしめることしかできない。
「ねえなまえ、細い」
「うん」
「僕だって肩幅が広いわけじゃないけどそんな僕より小さいって」
「うん」
「この小さな肩でいろんなこと背負いすぎだよ」
「うん」
「僕も一緒に背負ったらなまえ楽になる?」
「うん」
「一緒に背負わせてよ。僕にはなまえしかいないんだよ…なまえがいなくなったら僕にはなにもないんだよ…だか、ら僕のまえから、消えないで…ずっと一緒にいて…」
「…」
「…」
「トム帰ろっか。雨降りそうだし」
「うん」

「トム今日はありがとうね」
「ああ」
「今日」
「なにが」
「だから今日だよ」
「やめろ、そんなわけがない」
「でもトムには言っておかなきゃって」
「そんな…なまえ君ごときがこの僕をおいて消えるなんて許さないよ」
「トムらしい」
「なまえ、真面目に」
「出会えて幸せだったよ。私を選んでくれてありがとう。私を好きになってくれてありがとう。トムも幸せになって、トム大好き愛してるよ」
「なまえ、愛してるから行かないで…」
目の前に置かれたのは二度と動くことのない愛しい人の亡骸と冷たい現実だけ。
それに反し脳裏に浮かぶのはなまえとの思い出となまえの笑顔だけ。

( Shine Your Light. )
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -