彼女の黒髪が好きだった。
誰よりも美しく誰よりも長く、日々きちんと手入れされていることが容易にうかがえる彼女の黒髪が好きだった。
どんな人混みにいてもすぐわかる。彼女の名前はなまえ・みょうじ
ちゃんと話したことはないけど周りとの関わりを見ている限りでは誰とも群れをなさないけど浮かない程度には馴染んでいる。つまり僕のように世渡りが上手なタイプだろう、長く美しい黒髪に似合う透き通るように白く熟したリンゴのように赤い頬。まるで白雪姫のようだった。
童話なんて子供騙しなのはわかっているが彼女を表現するにはこれしかないだろうというくらいぴったりだった。
でもモノとして美しいと思う以上の感情はなかった。美術品くらいな感じなんだったと思う。風になびく美しい黒髪。すれ違うたびにシャンプーの香りのする髪に美しい顔立ち。まるで繊細に巧妙に丁寧に作られた白雪姫の人形だった。命の吹き込まれた人形。なまえには愛や恋だとか、人間らしい感情はないと思っていた。

しかしある日なまえはその長い黒髪を短く切ってしまった。
僕にとってみれば残念としか表現できないものであった。
するとなまえから声をかけられた
「リドルくん、あの」
「なにかなミスみょうじ?」
彼女は頬を染めながら僕に声をかけた。
だいたいこういう声のかけ方は告白だった。もしなまえが僕に告白をするのだとしたら僕にとってみれば興ざめである。誠につまらない。なまえも所詮これくらいのものかと諦めかけたところだった。
「リドルくんはいつもなにを見てるの?いつもいつもみんなを見下したようなその目」
「どういうことかな」
「私はね、お人形としてのリドルくんが好きだったのなのになのに…なんで心の奥ではそんなに人間らしい感情を抱えているの?そんなの汚らしいよ?リドルくんは感情のない綺麗なお人形さんでしょ?」
「奇遇だね、僕もそう思っていたんだ。君は人間味のない人形だと。でも今非常に失望しているよ、こうやってミスみょうじにも感情があったのだから。」
「そうだったのね、残念…でもね私はとてもわがままでだから。なんとしてでもお人形さんとしてのリドルくんを手に入れたいんだ」
「僕もだなまえ、夢にまでも見たよ。君を人形として誰の目にも触れないように閉じ込めておきたいってね」
僕たちは薄っぺらい貼り付けた笑顔で喋っていたため周りから見たら仲よさそうに見えるかもしれないが、今にも互いを殺し"人形"へとしてしまう殺意を漂わせていた。
どちらかが口を開こうとした時遠くからす生徒がやってくる声が聞こえてきた。
「タイムオーバーね、でも諦めてはないからよろしく」
「なまえこそ忘れないで、絶対に手に入れてあげる」
そう言って僕らはそれぞれ違う方向へと向かっていった。
その後お互いどちらとも関わらずに卒業。もちろん連絡先も知らない。
でもふとした時あの白雪姫が脳裏を掠める。
卒業から数年後白雪姫を忘れた頃のある日貴族の集まる舞踏会へと招待された。好きではないが死喰い人を集めたり権力者とのコネクションを作る為にと参加を決めた。

舞踏会で権力者たちと程よく打ち解け談笑していると人混みの中で懐かしい感覚がした。
あたりを見渡すと…いた。白雪姫、なまえだった。
落ち着いた上品なシルエットの黒いドレスに身を包む彼女は相変わらず美しかった。彼女も僕を見つけたらしくどちらともなくホールで踊っていた。
「久しぶりね、リドルくん」
「僕には新しい名があるからそれで呼んでくれないかなミスみょうじ」
「ヴォルデモート、卿」
「Well done. 」
「全く、お人形さんからどんどん遠ざかっていくのね」
「君はどうなんだい?」
「もうすぐ許嫁と結婚よ」
「許嫁…結婚…君も遠ざかっているじゃないか」
「在学中から許嫁はいたわよ。でも卒業後すぐにあなたをお人形さんにして行方をくらまそうと思っていたのにあなたが消えるから」
「僕は君が追いかけてきてくれると思っていたんだけど」
「馬鹿ね。そんなの片思いじゃない?片思いは負けた感じがするからしないのがモットーなの」
「はは、変わらないね」
「あなたも身勝手なところ変わらないわね」
曲が終わった辺りで二人でホールを抜け出し屋敷の周りの森へと二人で入っていった。互いにここで決着を着けるつもりだった。
歩いている彼女の背後に回りそっと首に手をかける。
「あらせっかちね、時間はあるもの。ゆっくりでいいんじゃない?」
「早くなまえを手に入れたい」
「もう…いいわ。どうせ私は歳をとってあなたには釣り合わなくなってしまうもの。殺すなら早くして。枯れた花は嫌でしょ?咲き誇ってる今この瞬間の私をあなたの記憶の中に留めておいて」
「ありがとう、大事にするよ。なまえは僕だけの…」
徐々になまえの細い首に力を入れていく。苦しそうな彼女の咳が聞こえる。
最後に聞こえた彼女の声は、ありがとう。だって
「もちろん、大事にするよ」
二度と息をすることのない彼女はどさりと暗い森の芝生に倒れ込み身を任せた。その姿はまるで闇に迷い込んだ白雪姫。
「ああ、美しいよなまえ」
やっと手に入れた。

(I'm dying for you. )
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