私はホグワーツ卒業後マグルの世界へ来た。両親は純血だったらしいがマグルが好きでこっちへと引っ越してきたらしい。しかしその両親を小さい頃になくしてずっと孤児院で育ったが11歳に私に届いたあの手紙にどれだけ救われたか。昔から絵を描くのが好きで心の支えだった。おかげでこっちでは少し有名な画家へと駆け上がることができた。5年生の進路指導面談を思い出す。
「ミスみょうじの進路希望は…はマグルの世界で画家…か」
「はい、それ以外は考えてません」
「しかし君のような成績なら…彼には敵わないがそれなりの選択肢はあるはずだ」
「ああ…彼ですか」
「それにしても彼は素晴らしい生徒だ…」
先生は一人"彼"をずっと褒め称えている。全く、誰の進路指導なんだ。
"彼"とはホグワーツ始まって以来の秀才と謳われるトム・リドルである。
同じ寮で同じ学年だから当然ライバル視はしていた。何故なら私がどれだけ頑張っても彼には、彼だけには敵わないから。成績はいつも彼が首席で私が次席。容姿はもちろん人当たりの良い性格に厚い先生方、生徒からの信頼。まるで絵に書いたような秀才、優等生。思い出すだけでため息が出てしまう。賞賛の意味でも批判の意味でも。

卒業を控えた7年生の半年が過ぎた1月の冬休み、凍えるような寒さの冬であった。リドルに呼び出されたのである、場所は監督生の風呂の前で待ち合わせと。全く何故呼び出されたかもわからなかったから行かなくてもいいいのではと思い無視しようとしたが談話室で取り巻きの女の子たちを無視してまでも私のところに来て「待ってるから」なんて言い出したものだから最後の賭けと必死に彼を落とそうとしている女の子達の鋭い視線に晒された恨みは忘れない…

「なんのご用で?」
「ミスみょうじ、あのさ僕と一緒に来ない?」
「はい?」
「僕はこの世界を変えたい、だから君の力を借りたい」
「あーアブラクサスみたいな感じ?」
「そう」
「悪いけど私は画家になりたいから、無理」
「画家…」
「ごめんね」
「そう」
おそらく彼は怒っていた、何故なら見たこともないくらい目つきが鋭く、目が赤く妖艶に光っていた。心の底から美しいと思った。この目を残しておきたい、自分のものにしたいと思った。今考えると愚かだったけど生理的欲求に近かった。
「ねえ、ミスターリドルあなたの絵を描かせてください」
「僕の、絵をねぇ…じゃあ君のなにをくれるの」
「なにが欲しいですか?ついていく以外で」
「うーん来週一緒にホグズミードいこうか」
「へ?」
「じゃあ約束だから」
「まだいいとは…」
「ダメとも言っていないから決定」
「じゃあモデルは…」
「明日から夕食の後30分、絵が仕上がるまで毎日。無理な日はふくろうに手紙を持たせる。でどう?」
「交渉成立です」
「じゃあ明日」
「ええ」
次の日から毎日リドルを描き続けた。でもあの時の美しさは表現できなかった。それが悔しくて悔しくて毎日描いたが無理だった。
ホグズミード?あれはほぼなにもなかった。ほぼ会話もなくお互い腹の中を探り合ううわべだけの笑顔と反応に当たり障りない会話だけ。ただ帰り際に聞かれた。「君はどこを目指すのだ」私は笑って答えた。どこもないと。
あの美しさを表現できないからモデルをしている際に聞いた。
「ミスターリドル?」
「なにかな」
「あなたの魅力はなに」
「どういうことかな」
彼はあの胡散臭い笑顔を私に向けて優雅に首を傾げた。
きっと答えてくれないことに気がつきいいえ、なにもないと言った。
彼はポージングをやめて私に近づいて普通の女の子なら心臓発作で死んでしまいそうな距離で囁いた。
「君はなにを知りたいんだ」
「あなたの全てよ」
「ふん」
そう言って彼はさも当たり前かのように私の頬にキスをして、また元の位置へと戻ってポージングをとっていった。高鳴った胸と熱を持った頬を必死に気にしないようにしているのはきっと察しのいい彼にバレていただろう。考えるだけで恥ずかしい。
その絵はどうなったか?未完のままである。未完のまま奥の部屋に置いてある。その後卒業間近になり彼も彼なりに忙しかったらしく会うことすらできなかったから。
最近スランプというかその未完のままのトムリドルの絵を仕上げることしか考えられず何事も手につかないのである。
久し振りに彼の絵を取り出すと埃を被っており丁寧に払ってやるとお世辞にも上手とは言えない自分の絵が現れつい笑ってしまった。
でも今この絵を完成させることはできない。リドル本人がいても描けなかった絵が本人なしで描けるわけがないのである。
「トムリドルがヴォルデモート卿、か…」
「久し振り、なまえ」
「えっ」
急いで振り返るとあのトムリドルが部屋の入り口に立って微笑んでいた。
相変わらずの美貌である。
「なんで、あなたがここに」
「君が呼んだんだろ?忘れたとは言わせないよ」
「うん」
「やっぱり絵上手だね」
「あっありがとう、それより絵」
「ああ、続きかい」
「早く」
「せっかちめ」
「…」
「…」
「なんで急に?」
「君が僕を必要としたんだろう?違うかい?」
「その、びっくりした。卒業以降会うことはないって思ってた」
「僕もそうだよ。でもなまえが僕を必要としたから、名前を呼んだから来たんだ。」
「そういえば新しい名前を呼べば来てくれるんだっけ」
「なんか違う気がするけどそうだね」
「じゃあこの名前はリドルに会うコールボタンね」
「それは違うと思うけど」
「あらそう?まあいっぱい呼ばせてもらうからよろしく」
「なまえ、気が変わったってことはないのかい?」
「今からでもあなたについていけと?」
「やっぱりなまえ、君は聡いね。みんな君のようになって欲しいんだけど」
「あら私はいやよ。だってみんなが一晩で次席になったらリドルにこういう扱いしてもらえなくなるし私の努力はどこへ行っちゃうの?それにリドルの首席、秀才、優等生の価値が変わるんじゃない?」
「僕の心配してくれてるのかい?」
「どうなのかしらね」
「で、返事は?」
「知ってるくせにまだ求めるなんて意地悪ね」
「さあ行こうか」
そういうと私たちは姿くらましをし彼の世界へと旅立った。

きっと彼はあの7年生の冬から私が彼に恋という感情を抱いていることに気がついたのだろう。ついてくるなら構わないけどついて来ないのに恋は邪魔。だからその後なにもなかった。でも今私が彼を恋しく思っているのを彼は知っていたのだろう、きっとそれを利用して私を連れて行きたいのだ、闇の方へ。能力を買ってくれるがただただ嬉しかった。彼に評価されることが嬉しかった、彼が私を見てくれていることが嬉しかった。利用でもなんでもよかった。彼と同じ景色が見たい。二度とこちらには戻らないだろう。それでもよかった。失うものはなにもないむしろ彼と何かを掴みたい。それだけ。それが私の決意。

後日世間は売れ出し画家謎の失踪と囃し立てた。おかげであの有名な巨匠たちのように私の作品の価値は跳ね上がった。そして私の部屋にはやっと完成した彼の肖像画がポツリ置かれている。
あれは私が世間へ宛てた餞別のつもり。

( Good bye World. )
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