(響と日宵)


 心臓が高鳴るようなときめきを、未だ、味わったことは恐らくない。
 内臓の擦り切れるような悲しさや怒りならあっただろうか。きっと。あったかも知れない。
 上手にそれを言葉に置き換えられていただろうか。俺は知っての通り何も分かりはしない。

「分かることを数えるのは怖いけれど、分からないことを数えるのは安心する」
 空想に責任はない。知らないことはずっと知らないまま、それで良いとさえ思うんだ。
「俺は知りたいとおもうけどなー、まあ」
「日宵のそういうところが、俺はすごいと思うよ」
「無責任なだけじゃねーの。自分の感情位っきゃ切り売りできないって、そんだけ」

 きっと。きっと彼も未だ、心臓の高鳴るようなときめきを。知りはしない。







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