(日宵とゆら)
出会ったときにはもう、彼女からは煙草の匂いがした。
煙草を吸う女は押し並べてヨーコのような女だと思っていたのだが、どうやら違ったらしかった。
銘柄は父親譲りのピース。お気に入りはインフィニティ。ショートは重たいし両切りだしでだるくなってやめた。らしい。しらんけど。
「よくノド悪くせんね、お前」
「あたしは歌わないから良いんだよ」
「はー? 悪くしてんのかよ、知らなかったんですけど」
制服でだって構わず彼女は吸った。級友たちが彼女をどう思っていたのかは知らない。割と良い高校のスカートを焦がしていたことは知ってる。知らないことのほうが多い。ゆらだって、俺のことはたぶんあんまり知らない。
俺たちは今だって知りあっているのが不思議なくらいで、ずっと前に掻き消えていたっておかしくないくらいに、縁は細く薄く弱かった。消えそうな蛍火に縋っていたのはいつだって俺だ。
「ゆら、一本」
「……、珍しいね」
「そーゆー気分の日だってあんのよ、俺だって」
あの日の匂いを染み付かせた身体で、眠りたいのよ。