:それによく似た没ver
:砂川と多々良の場合



 夏風邪は馬鹿が引く。あたしの幼なじみにあたる男が風邪を引いた。現在、真夏。つまりつまるところ、この男は馬鹿だ。大体の三段論法が成り立ったタイミングで、ピピピピと体温計のタイマーが鳴った。
「うわお、本日新記録」
 見てみてー、と言わんばかりに彼は体温計のディスプレイを此方に向けて笑う。39.2。いつも丈夫に過ごしているそいつからしたら、確かに大きな記録だった。ってマジふざけんな。

「この年で看病とかあり得ない」

 多々良から体温計をひったくり、ろくに確認もしないままケースにしまう。かしゃん。彼の叩きだした最高記録は一瞬で消える。
「俺、自活力ねーからさー」
 そんでもってタイミングも読めねーんだ。まさか母親帰省(多々良はジュケンセーを言い訳に放置)中とは思わんし。
「ごめんなー、近所でトモダチってお前しか居ない寂しい野郎で」
 にへら、と笑って、だらしない顔を益々だらしなくさせながら、あたしと目を合わせる。
 まったく、そこまで分かってて、なんで止めてくれないかなぁ。無理を言ってるのは承知だから、舌打ちしたい気持ちを必死に押さえながら、あたしは薬局の袋から冷えぴたを取り出し突き出すに留めた。
「感謝!」
「崇めなさいよ」
「でも冷蔵庫で冷やしてくれてなかったから女神ではないな」
「返せくそ野郎」
 わぁー、そんな言葉使いじゃまた本性ばれちゃうゾ! ふざけ茶化し99%で多々良は言いながら、私の手からうまいこと逃れ、冷えぴたを額に張る。

「うーむ、やっぱりビミョー」
「あんたなんか保冷剤と心中すればいい」

 確かに生ぬるいだろう冷えぴたに、多々良はちょっと文句を言う。だけどそれは口だけで、笑顔がお礼だだもれで。あーやだ、苛々しちゃう。







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