(魔法使い:酒井渚)

 僕は魔法使いである。と、思ってみる。思い込んでみる。6時5分、布団の中で目を開けたら無性に世の中が嫌いになりそうだったから。朝は嫌いだ。朝の僕は驚くほどみすぼらしいただの肉塊のようだし、怠いし頭も痛い。
 しかし、なんて馬鹿馬鹿しい魔法使い。ならばどうしてこの状況下で呼吸をしていられないのか。三分間の無呼吸よりも、此処での三十秒の呼吸が窮屈で仕方なかった。
 どういうわけか眠っているうちに潰れたらしい口内炎と、そこに未練がましくくっ付いたままの薄い皮をそっと舐めたら、血の味がした。いたいのいたいのとんでいけ、でその痛みをどこかにやってられるほど、魔法は溢れていないし、そんな呪文はとっくに壊れた。

 世界には魔法が足らな過ぎると思いませんか。戯言ね、と、智瀬なら無表情で僕をひっぱたきそうだと思うと笑えた。





(魔法少女:井原智瀬)

 人身事故のお知らせと電車の運転見合わせ。ちょうど私が降車した時のことだ。私と同じ駅で降車した男の人はラッキーだったと言わんばかりのホッとした顔をして、今から電車に乗るつもりだった大半の人々は朝からなんて迷惑なのだと舌打ちをそのまま顔面に張りつけたような顔をしていた。恐らくこの中の98.7%はその事故を日常の茶飯事のように2日で忘れる。なんてつまらない事だろうと思いながら、私は駅から少々歩く学校へと歩きだした。他人の不幸は幸運になりうるのだ。

 ねえ、今日の私は幸運なのかしら。戯言だよ、きっと酒井はそうして曖昧に笑うのだろうと思って泣きそうだった。








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