:砂川と酒井
「よっくやるよねぇ、渚くん」
苗字で呼ばれるのは好きじゃない、という話の裏側には苗字で呼んで良いのは井原さんだけなんだという意味が込められている。馬鹿馬鹿しい。井原さんはただ呼び方がわからなくて“酒井”なんじゃん。それこそ酒井、あんた井原さんに“渚”の名前の権利をあげなよ。このチキンめ。
「やっだーなんのはなしかな砂川さーん」
「うわきもちわるい」
「ひどいな、相変わらず」
相変わらず、なんてキミにいわれたくないです。ていうかあたし、渚くんにそんな悪口雑言とか、「祥太が幼なじみがドSって」……あいつあとで殺す。
しかし気持ち悪いは酷すぎでしょ、と彼は呟く。へらりと笑ってまるで何もなかったように。
実体が無い。とか、多々良は言ったけどマジ実体どころかなんもないよこいつ。口から出任せしか言ってない、じゃん。
「本当、気持ち、悪い」
「……なに、あの子きみの後輩だったとか?」
「まあそんなとこ」
つーかお前の悪評広まりすぎだっつーの。あの噂に疎い多々良だって知ってたあたり察しろよ。あたしだったら心折れてます。よく学校来てるよねキミ。
「あたしには無理だと思うわけ、そーゆ偽悪むかつく」
「偽悪? 違うね、偽悪に見せ掛けた偽善だよ」
「……自覚済みとか、サイテー」