(唯子と祥太)


 あたしの隣に、ずっと居た。身長はぐんぐん伸びていつの間にか見下ろされているけれど、子供の時から、それはずっと変わんない。
 その、場所。それはそれで、あたしだけの大切な場所なんだろうと思う。

 少しくらい、多々良だってあたしの隣って場所を気楽なところってくらい考えてくれていると良い。というか、そう、思ってくれている。
 結構あいつ、分かりやすいから。学校では所々無理をしていることも、あたしには筒抜けだ。ばかみたいだなって思って、優越感。そんなあたしが一番ばかだ。

(なんて、猫被りがデフォ過ぎるあたしのが、この場所に依存してる?)

「砂川ってさ、井原のこと嫌いなの?」
「……はぁ?」

 久し振りに一緒に帰ってみたら、これかよこのクソ野郎。と、いう舌打ちはなんとか飲み込んで、一つ息を吸い込む。
 まるで当たり前のことを訊いたかのような奴の間抜け面に何発かお見舞いしてやろうかとも、思ったくらいだ。

「別に何もないけど?」
「……そう?」

 俺が井原の話すると、お前機嫌くっそわるいからさ、なんて。なんなのよ、こいつ。空気読めっつうの!

 何度も、思うの。あと一歩かもしれないって。あと一歩でもしかしたら、奇跡は起きてしまうのかもって。
 自惚れだけれど、自惚れだと思って笑い飛ばしては虚しくなる、けれど。

 でも、そこでハッピーエンドはいおしまいめでたしめでたし、ってわけになんかいかなくて、当たり前だよね。その先にはまた時間が続いていて、あたしと多々良がそのあとどうなるのかなんて、分からなくて。

(一歩、なんて言ってみているだけよ)
(早くどっかに行って)
(他の女の子のところでいいよ、あたしにキョーミなんか無いって嘲ってよ)
(そしたら、そしたら、どれだけ楽かなぁ)

(きっと、泣くけどさ)

「祥太」

 久々に舌にのっけた音は、やけにしぃんとした空気を揺らした。多々良が何が起きたのか分からないと言わんばかりの顔であたしを覗き込む。
「……!? え、えと、何、唯子」
「呼んでみただけ」
 呼んでみた、本当にそれだけだった。外方を向けば、多々良はうぅん、と、もう一度考えてからちょっと笑う。

「唯子?」
「あんたは呼ぶな」

 まだ、こわいんだと思う。だから、まだ、そういう奇跡が起きたら良いなって身勝手に笑って夢を見ていたいの。



BGM:ループする初恋
(cosMo(暴走P))






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