一冊の本を君は選ぶ。たまに、一冊じゃなくて数冊選ぶ。絶対に一日に読み切れないだろうと言う冊数を選んで鞄に詰めることもある。
俺はそれは彼女の自由だと思うから何も聞かないし何も言わない。鵺も、何も言わない。鵺は朝はすこぶる弱いので、いつもの数倍動きが緩慢になり表情も乏しくなる。
「慈草。君はいつまでたっても絶対に自分で朝食を用意しないね」
「要らないと毎回言ってはいる」
「そういう問題ではないよ。俺は朝食を食わずに本を読む君の気が知れない」
目の前でカップスープを飲みながら(俺が湯を注がないとこれすらも飲もうとしない。絶対に学校の自販機でポタージュの缶を買うことになるのは目に見えているのに)、こちらを見もせずに会話。彼女の視線は文庫の文字を追っている。朝、一番の作業が彼女にとってはこれなのだ。
俺が朝起きて最初にすることは“彼女達”の手入れだし、鵺は一日を拒絶するための防護服(ゴスロリ服)選びから始まる。ここにこうして集まるのは、目が覚めてからとうに三十分か一時間そこらしてから、と言うのが常だ。その間に覚醒することのない鵺と、その間に結局読書に引きずり込まれていく慈草を、俺は自己管理が出来ない人間と呼ぶことにしようと思ってしばらく前からこうはなるまいと心に決めている。
鵺が半分食べて残したトーストを食べながら、慈草の飲み終わったスープのマグカップをうけとる。無言。流しに放り込んで、水につける。今日ははやめに帰ってこられるはずだから、帰ってきたらまとめて洗おう。思考。そしてもどって鞄を取った。となりを自然と二人がついてくる。
「あ」
歩きながら読むのは止せと再三言った効果か、慈草が本を閉じた。
「そういえば。おはよう、里々」
「ああ、おはよう」
おそすぎるはじまり。
俺達の朝だ。
即興小説/15分
お題「君の朝」