:心臓
:慈草となこと
「今、は、僕の心臓なんだなって」
自分でもわかるくらい不恰好に笑うと、彼女は一瞬きょとんとしたように僕を見る。ぱちんと目が合って、呼吸が苦しいくらいにどくんどくんと、鳴るから。いことの心臓はこんな反応しないから。
(例えば、いことが迴ちゃんと一緒に居るのと、きっと似ているんだ)
野棚さんの隣は、苦しい。勝手にいことの寿命を短くしちゃってるんじゃないかって、ぐらい。
「野棚さん、好き」
「アホか」
「別にアホでいいよ」
だから泣きそうな顔をしないで笑ってよ、こんな仮初めでハリボテの僕でも、それでも此処にいて隣で冗談言ってられることが嬉しいんだから。
「この心臓、全部はあげられないんだ」
でもね、今だけ、僕の分は全部君にあげるから。作り笑顔の絶望的に可愛くない君に向けて、これが僕の青春です。
(BGM:心拍数#0822)