(里々となこと)


 優しくされたいとか、甘やかされたいとか、そういうの、駄目なのかな。なことが、ふと、言った。

「君は十分過ぎるくらい甘やかされてるのでないかと、俺は思うけれど」

 比較的愛想の良いその少年は、誰にも嫌われにくくてどちらかと言えば好かれやすくて、世渡りが上手い。本当の所、一人で居ることが楽だと思っている節があるのを、綺麗に覆っている。自分の中に出来てしまった苛立ちをまるで無かったように取り繕うような、そんな人間。

 性悪だと思いながら、しかし俺も俺でそんななことを甘やかしている人間の一人だという自覚があった。
 なことは、沢山の誰かに優しくして優しくされて、甘やかして甘やかされている。息苦しいくらいの甘ったるさに溺れているくせに、本人はそれでも、笑った。

「誰か、じゃ、なくて」

 ねえ、そう言ったら駄目なのかな。僕は足りていないから、そんな権利、ないのかな。苦々しい、可哀想な表情をする。
 迷子みたいだ、と俺にしては分かりやすい例えを思いついたのだった。

「馬鹿だな、君は」
「なにそれひどい」

 誰かじゃなく思われたいと言う権利なんて、誰にだって無いんだよ。だから、それを許して貰うための自分の思いやりだろう。
 そんなの、泣いたって仕方ないよ。好きほど怠惰なものは無いんだ。なぁ、怠惰なままで生きていけるとでも?

「自分が好かれるような人間だか、今一度考え直すことも必要なんじゃあないかな?」

 俺は意地が悪いのを承知で、そう囁いてやる。なことは一瞬顔を歪ませてから、不機嫌そうな在り来たりで安売りされそうな顔を作り、俺の頬を引っ張った。

「マジ里々最低」
「嘘だからいいと思ったんだけれど、違う?」
「そーゆーの、別に望んでないですー」

 望んでいるのは、彼奴の特別。そうだろう。
(いつだかそれを、望んでいたらしい、俺も居ました)






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