(野棚となこと)


「っ、天藾!」
「あっはは、おはよ」

 目を開けた瞬間に、其処に在った瞳とばっちり目が合う。ぱちん、と、音がするくらいにはっきりと。
 肘を突いて俯いた形のまま、終わりそうもない授業のオリエンテーションを聞いていた。どうせ私に関与する気も無いなら端から放っておいてくれと考えながら、うとうと、と。

「普通に、寝てたよね」

 思い切りのけぞった私を見てからけらけらと笑ってから、耳元に寄って小声で囁いた。まだくどい説明をしている教師にばれないように、小さく。
 その吐息の混じった声がやけに大人びて聞こえて、私は一瞬だけ意識が真っ白になってしまった。

「どーか、した?」
「なんもな、い」
「……うーそ。なんか、変な顔したもん」

 何もないよ、私はそれだけ言って、此方に身を乗り出していた天藾を押し戻す。うるさくなりそうな心臓に、黙れ黙れときつくきつく念じながら、何回も何回も、深呼吸した。

 ああ、そうだろう。きっと私はみっともないくらいに動揺して収拾の付かない感情に呑まれたような、ひどいかおを、していただろう。
 どうして、こんな容易い距離の内側に君は入って来てしまうのかと、真剣に一度訊けたら、ねえ、私は楽になるのだろうか。


(笑って、きみと同じ呼吸することについて、ゆっくり考える時間をください)






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