居留と僕は、たった二人きりこの街で生きるしかなくなった子供だった。とにかく、生みの親は駄目だった。俗に言う悪い薬の虜だったから。殺される前に何処かへ行かなくちゃならなかった。街の底辺で生まれた僕らに、今更、他に行く宛ても無かったのに。

 僕らは双子だったけれど、居留の方がいつもしっかりしていて、いつの間にか居留が兄貴で僕は弟だと言うのが当たり前になっていた。無意識に、僕は居留に頼っていたんだ。だから。だから、居留は今日も。

「……ただいま」
「居、留?」

 こんな時の居留からは知らないひとの匂いがする気がして、少しだけ怖い。怖い。
 槻くんは既に床に就いていたけれど、僕は何とか起きて待っていた。布団の中で、何度も何度も居留に謝りながら。
 僕に出来ることはそれだけだったから。居留が女王様に酷くされて帰って来るのを泣きそうな気持ちになりながら、ただただ待つの。

「寝て待ってろって、言ってんのに」
「それじゃ、待つって言わないじゃんか」

 もう、朝に近かった。あと二時間としない内に、柳姐さんが僕らを叩き起こしに来てくれる。
「柳姐にどやされても知らねえからな」
「そんなへましないよ」
 柳姐さんは何も知らない振りをして、分け隔てなく接してくれるから、居留も下手に浮かなくて済んでいた。身体的には辛いだろうけれど、精神的には柳姐さんの扱い方はとても楽で、優しい。

「ばーか、お前毎日叱られてんじゃねーか」
「あれは違う、もん」
「はっ、なにが違うんだよ、言ってみろ」

 居留は、少しだけ笑った。疲れ切った様子で、身体中に傷や何かそんなものを残したままで、なのになんでもない風に。
 隣の布団に居留が潜り込むから、僕も習って少し布団を掛け直す。川の字の真ん中が僕で、奥は槻くん、一番出入口近くに居留は寝る。向き合うように居留の方へ寝返りを打った。

「ねえ、居留」
「どーしたよ」
「僕らは、どうして双子なんだろうね」
「……なんだそれ」

 どうして双子で、なのにこんなにも違って、僕は居留の代わりになってあげられないのだろう。居留ばかりが辛くて、僕はただこんな風にするしかなくて。泣くのも狡いから泣くこともしなくて、じゃあこの感情は何処に消化すれば良いのかな。
 僕の言葉の意味は居留に伝わっていたのだろう。そっと、その目が開いて、夜明け近い薄明かりの中僕と同じ(だけど、見え方の違う)瞳が此方を捉える。

「相っ変わらず馬鹿だよな、奈留って」
「ひっど、なにそれ!」

 ──双子だったから、生きてるんだろ。

 居留は、たった一言だけ言った。それからすぐに目を閉じてしまう。疲れて居たのか、僕が何か言い返す暇も与えてくれなかった。
 ねえ、優し過ぎる僕の兄さん。生きたく何かなかったのでないか、死んでしまいたかったのでなかったのかと、僕が訊ねたら貴方はどんな顔をしますか。







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