頭のおかしな男だと言ってはそれまでだった。女王に言われて来ただけにしては、度の過ぎたお節介。頭も悪いし、最低だった。

(あいつ、要りません)
(ぶっ壊れて使いもんにもならねぇ餓鬼があたしに反抗しようって?)
(……なら廃棄にしてくだされば、良かったのに)
(顔だけは良くて使えるんだ、そう簡単に捨ててやるわけないだろう)

 壊れたと女王は言うけれど、別に僕は何もおかしくなんかなっちゃいない。ずっと、こうだったんだ。今更どうしろって?
 何をどう振る舞えばこの厄介な話し相手役は失せるのだろうかと考える。しかしかといってこんなきらきらした相手を門前払いする程冷淡にも成り切れずに、取り敢えず中に招いてしまうようになったけど。畜生、負けてる。

「よーっし、匣、今日は探検行こう!」
「……却下」

 毎日来る、変な男の子。真っ直ぐ過ぎる笑顔や真剣な言葉や突拍子もない提案。僕を見てたまに泣きそうになるそいつに、ずくんと何処かが痛むのはうそ。

「客でもない野郎の言うことなんて、何で聞かなくちゃならないのさ」
「匣、君って本っっ当に可愛くないよね」

 別に可愛さなんて売ってねえし。会話すら怠くなって、ベッドに寝転がってひらひらと手を振る。帰れ帰れ。寝返りをうったら、身体に慣れない煙草と香水の匂いが残って居て、吐きそうになった。昨日の夜が、巻き戻されるみたいに。

「や、でも籠もり切りは身体に悪いって」

 ほらほら行くよ、と、ベッドから僕を引っ張り起こす。今日は洗濯の当番だったのか、奈留からは淡い石鹸の匂いがした。はたと、気付は香水も煙草も掻き消える。

 最初の頃のよそよそしい少し控え目だった態度はある日を境にぱったり無くなった。代わりに、距離感の掴みにくいどんどんと勝手に割り込んでくる、気を抜くと寄り掛かれてしまうくらい近くに居るようになった。それはきっと、僕にとってとても恐ろしい事でしかないのだ。

「てゆうか、探検って」
「お、興味出てきた?」

 違うよばかじゃないのって言いたかっただけ。僕はベッドに座る形で、やけに近距離に陣取る奈留を睨む。

「匣、此処に来たばっかりで箱庭のこと知らないじゃん? だから、ちょっと見てみようよ」

 普通この箱庭では、遊君は2、3階で売れて初めて4階以降に上げられる。と、聞いていた。しかし女王の気紛れかなんなのか、僕は二週間も2階に留まらない内に、4階に放り込まれた。
 その珍しさに惹かれる客は少なくなく、結果として、僕は着実に売られることになったのだが。

「ね、行こう」

 ね? と、僕の着物から少しだけ出た指先に触れて、笑う。するりと、入って来る。空にしたはずの脳内が、奈留と居るとうるさいくらいの音楽でいっぱいになっていく。

「……っ、」
「はい、決定!」

 まだなんも言ってねーだろ! って、言うより早く、奈留は部屋の端の連絡用の子機で柳に連絡をとっていた。
「え、うん、そう、匣だってば。嘘じゃないよ、あの4階の匣!」
 大至急! 匣の気が変わらないうちに! そう言って子機を置く。
 なんだか失礼なことを言ってるのが聞こえた気もしたけど、耳の奥がへんにどくどくうるさくてうまく聞こえない。なんだよ、これ。







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