(銀と藍)
「『あなたなんて嫌い』」
「『嗚呼、俺の気持ちが届かぬと言うなら、遣れるものなどもう残って居ないのに』」
大嫌いよ、真に迫る抉るナイフが言葉として刺さってくるので、これは如何に彼女のお遊びとしても痛くて仕方がないと思うのだ。
彼女の好きな劇のシーン、らしかった。俺は別に興味の欠片もなかったが、其処の所は暗唱するまでになっていた。
「……髪を、くださいな」
「は、い?」
『憙、命も賭せぬなら、死んでいても同じだわ』そう続く言葉は無く、彼女は綺麗に作り物の様な笑顔を浮かべていた。
「私、銀のその白銀の髪だけは美しいと認めているのですよ」
御嬢の其れよりもともすれば美しく冷たいかんばせ、それが至近距離まで迫る。淡い香の匂いがした。しなやかで柔らかい氷の様な。
そう言えば、幾分か昔に少しばかり伸びた髪を切ったのも、そう言われてだったのだ。
(俺好きだよ、銀の髪、ねぇ頂戴)
(頂戴、て)
(大丈夫、首なんか切らないから動くなよ)
(待て、麗、それ鋏!)
否、切られたと言っても語弊は無い、か。
「……マジで言ってんのかお前」
「馬鹿ですか、貴方」
遊君が本気になるのは嘘ですよ。嘘に本気で、本気は嘘であった。そうかこの人は心底天才的に遊君を演じ切るだけなのだ。屹度本物の藍など誰も見たことが無いのだ。
「でも、そう、」
驚くほど自然に美しい手つきで彼女は俺の頭に手を伸ばし、小さな痛みと共にとある欠片を引き千切った。彼女の指にからむ俺の白糸。
「髪が美しいのは本当ですよ」