慎と愛



 僕にとっての唐木田愛は果たして昨日の延長線上にあるのかといわれればそれはイエスだ、そう今まで思い込んできたが、昨日の前のずうっと前の唐木田愛と繋がってその系譜の一部としての唐木田愛を認めているのかと問われればそれは非常に難しい一面だと思った。僕に出会う前の愛に一ミリの興味もない。どころか明日の愛にも興味関心はないし、今、この瞬間の唐木田愛という存在に永遠に近いほどの意味を感じている、それがもしか昨日になったなら僕はその彼女のことを刺し殺すことも厭わないだろう。ただひたすら、僕の目の前で呼吸をし、時折口を利き、瞬きなんかもする、一瞬の君の事をもしかしたら連続の君として捕らえられたことなんかないのかもしれなかった。僕にとって昨日の延長線上にすら、君はいない。
 本棚をなぞる指、背表紙を見つめる視線、きっと言葉になって脳に伝わるであろう文字の一つ一つ。髪が揺れて肩を流れる、本棚の指先がその髪を捉えて耳にかけなおす。動作の全てが連続で、君は一つ固体としてこの世の中に存在している。途方もない連続の風景が君を構築していく。そのことがおぞましいほど愛しくて、愛しいほどおぞましい。彼女の視線が一瞬の停止をもって僕に向けられる。弾丸を感じる。

「何ですか」
「なにも言ってないじゃないですか」
「目は口ほどに」
「愛は口のほうが喋りますよ」
「言わなくても伝わるものの話です」
「綺麗だと思ってただけです」
「……、うそ」

 綺麗だと思っていたのは本当だ。その視線がこちらを向いたとき、あなたの中でも僕は連続の風景の中にある。理性的な君は恐らくそれを昨日の吾亦香慎と連続させ、一昨日の、先週の、先月の、昨年の、僕ときちんと連続させていく。そしてきっと明日も。明後日も。それ以上先のことを思えるほど僕の人生は確定していないけれど。そういうことを何の疑いもなく行うだろう君の思想、思考、その純粋さを美しいと、僕は思う。君の目の中の僕という吾木香慎というそういう男は、君のことをどう映しているだろう。本棚の中に詰め込むように、文字を追う瞳のように、僕の血はもうすべからく君のものなのだと思った。












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