(君は、ひとりで、いくんだぜ)
誰一人として起きていないような、真夜中。
もしかしたら誰かは起きているかも知れなくて、もしかしたらその誰かは僕と同じく行き場のない思考とかに溺れそうになりながらも、誰かの寝息を聞いているのかもしれないけど。
僕の隣に、寝息はなかった。
「ねえ、いこと」
口に出しても、君には聞こえないね。僕の中で眠る君が見る夢を、僕は知らない。
僕は君の全てを知ってはいない。
何も知らないと言うまで謙虚になるつもりはないし、何も知らないわけではないけれど、それでも全部は知らない。だけど、君が一人で眠れると言うことを、どこか愛しいと思うことはできる。
「いこ、と」
名前をくれた、あなた。初めて僕を呼んだあの日みたいな君が二度と来ないことを僕は知っている。
それが淋しいことというべきなのか、嬉しいこというべきなのかは、僕には決められない。そんなものは、この夜に溶けてゆけばいい。
「ねえ、」
これは、全部独り言だよ。だから大目に見てほしい。
僕と言う、天藾なことの設定の中にうまく当てはまらないような気分の悪くなるような台詞にあふれていても、どうにか、ゆるしてほしい。
いつもの僕みたいにあくどくなかったら、全部眠気の所為にしてほしい。どうせ、だれにも届きやしないから。
「いつか来てしまう、僕のいない世界ってやつが、幸せならさ」
死んじゃえばいいけど、生きればいいね。一生何処か淋しいままでいてくれたら、いいね。
もしかしたら、そういうのを僕は幸せって呼ぶのかもしれないね。それは、確かではないけど。
それでも、これから先、いことはしあわせなんだろう、って、それだけはきちんと知っているから。
BGM:Alice(古川本舗)