:夕志と時姫


「恋愛なんてものは、結局条件付けに過ぎないのよ」

 古典的条件付けと道具的条件付けを合わせて上手く使った方が勝つだけの、心理戦、そうでしょう。

 俺さー、懶さんのこと好きなんだよねー。すっかり挨拶に成り下がった俺の告白に対し、彼女は今日は珍しく反応し、そう呟く。
 そんな風に、たまぁに反応返したりするから、もしかしたらって気持ちが消せないんだ。もしか、もしか、いつから笑ってくれるかもしれない、なんて。不定期かつ不確定なそのご褒美は、俺を離さない、ね?

 此方に一瞥もくれないままの彼女は、見るにひやりとしたその白い肌に真っ黒いカーディガンをそっと被せた。そのコントラスト。俺は目の前のそれに、少しばかりの眩暈を覚える。
 俺の心臓事情や眩暈事情など知らぬ彼女は、資料とレポートとを見比べ続けた。教室に居るときよりも控えめに低い位置で纏められた髪が、少し揺れる。ちょっとキツいのではないかと思う、不健康な冷房の風の所為。

「俺にゃ、難しいことはわからんよ」
「馬鹿は嫌いだわ」
「相変わらずきっつ!」

 彼女の恋愛観は少し歪んでいて、そして彼女はきっと恋などしたことが無いようだった。理屈で詰めた人間とも言い難い直情さがあったけれど、同じくらい感情を詰めた人間とは言い難い堅さがあった。
 そして彼女は「あとは少しの吊橋効果、かな」と付け足す。伏せられがちな、黒い目。綺麗だけれど物怖じしてしまうような。

 彼女は最近すこぅし、心理学を読んだらしい。ちょっぴり影響されやすいな、なんて、頭の隅で俺は笑う。どんなことも、彼女であれば可愛らしいような気がしている俺は、きっととんでもないばかなのだろう。

「俺は、それでいいや」

 それが、いいな。もしも、そうであれば良かったな。そうして諦められたらな。これの全てがただの生理現状だと嘲笑えたら良かった。

 彼女は俺の言葉にぴくんと反応して、顔を上げる。(こんなにも)深い、厭な目付きをした女の子。(一瞬の君の表情に)その真っ黒な瞳が此方に向く。(俺は、)

「でも、その恋を好きになるのは自分の意志だ」

(まるで条件付けされたように鼓動の高鳴る馬鹿で、あるけれど)








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