(黒梨となこと)


「黒梨くんのピアスって、なんなの?」
「……なんなのって、なんなの」

 適当に切り返すも、隣に座って緑茶を啜ってた天藾は完璧なまでにスルー。まじまじと俺の左耳を見ている。俺は見ていた料理番組を消して(今日のメニューは手が込みすぎてて無理そうだった。技術よりもやる気がない)、天藾を見つめ返した。

「すごい、大事そうにしてるから」
「そーか?」

 おもむろに、なことは手を伸ばし俺の左耳に触れる。耳たぶの辺りに空いた3つの穴と、そこに通る金属を撫でていく。
 下から順に、一つずつ。最初の一個は母親が開けようよーとか騒いで開けたやつ、次のは友達が開けるのに付き合って開けたやつ、そして最後のが、梨紅の開けたやつ。三つ目に触れそうになったところで、俺は身を退いた。
「やっぱ大事そう、相当。無自覚なの?」
「いや、特には」
 なんて、ちょっと嘘だ。女々しくてしょうもないけど、大事にはしてしまっているかも知れなかった。

「ピアス、楽しい?」
「いやそこは別に。フツーに痛いし。母さんも友達も梨紅もがさつだから」
「……って、開けてもらってんのかよー」

 黒梨くん、もしやチキン? くすくすと天藾が笑う。失礼なやつだ。こんつと額を小突いてやった。「他人にやってもらう方が楽なだけだよ」言いつつ、緑茶のおかわりを置いてやる。
 天藾はそれを受け取ってからちょっと神妙そうに考えたような顔をして、「……マゾ?」ってなんでそうなった。

 危うくのみかけた茶を吹き出しかけたじゃねえか。「あほか」「いやマジで」「慎じゃあるまいし」、あいつの耳は痛々しくて、あまりよろしくないと思う。
 あれを“マゾ”の一言で片付けていいのかも、イマイチ分からないところではあるが。

「黒梨くんマゾっ気あると思ってた」
「今日からドSで運営してやろうか」
 毎日夕飯キャベツ生とか。そう言ったら「それは勘弁!」と、なことは笑う。

 脳裏を掠める、あいつの顔と少し触れた3つ目のピアス。そこには安っぽい貰い物のピアスが、全然趣味じゃないピアスが、今日もついていた。

「……でも、まあ、残るってのは悪くねえかな」
「前言撤回、黒梨くんはドマゾだった」







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