(いことと琉夜)
「なんで琉姉だよ」
「文句言ってんじゃねえ首切んぞ」
文句はなこに言え。そう付け加えながら、しゃきんしゃきんと鋏を滑らして切り揃えていく。
長く翔保の柔らかい髪を切っていたからか、固めの髪に違和感。しかも、本当に黒梨は適当に切ったらしく伸び方もまちまちなのでちょっとばかり困る。
「信用なんねーよ、琉姉がさつだし」
「マジで首切るぞ」
ぴた、と刃を当てる真似をすると黙るのは少し面白い。やっぱりガキだな、と思う。ただ、いこは随分生意気で、なこには無い子供っぽさを持ってるのだとも、思う。
全く同じ生き物のはずなのだが、中身が違うだけでこうも違うなんて。
「つーか、いこも俺のこと姉貴っつーのな」
「ああ? あー、そうだな、呼ぶ」
何でだろうな、とぼやくように言えば、首を傾げながら、うーん、とかなんとかいこが考えるのが分かった。っていやいや頭は動かすなよ間違ったとこ切るだろ、アホ。
「ちょっと姉貴が欲しかったんじゃねーかな、わかんねーけど」
「なんだそれ」
なこと言ってること被ってるぞ、なんて、言えば猛反発されるに違いないので、ちょっと笑うに留める。
危うく黒梨を馬鹿に出来ない髪型にするところだったのは内緒で、取り敢えず仕上がりを告げた。
彼奴はふるふると頭を振って、それから鏡を見た。きょとんと、したその顔はちょっとなこに似てる。当たり前だけど。
「普通に上手い」
「言ったろ」
「琉姉のことちょい見直した」
「誉めてんのか嘗めてんのか殴ろうか」
ソレは勘弁、と言うこのガキはやっぱり、そういやあ弟ってのはこんなもんだったかもしれないな。なんて、一瞬思わせるからやっぱ笑った。