:慎と愛


「愛は、死に損ないの姫草のようですね」
「また、どうしようもないことを、貴方言うものですね」
 彼女は、僕の部屋の唯一のまともな家具(他に言ったらソファーベッドくらいしか置いていない、ああ、そう言えば一応サイドテーブルはある、か)である本棚を眺めたままに、僕を振り向きもせず声だけ返す。
「私は、利の無い嘘は吐きませんよ」
 其れに、あんなに巧くない。と、結局手に取り掛けたらしい文庫を仕舞ってから、少し振り向いて、笑った。虚しい笑い方だった。
「私は、嘘に死ぬことは出来ません」
 嘘は、生くる為に吐くのです、から。
 呟くみたいに付け足す彼女は、空世辞に相応しく空虚を孕むものを持って居て、僕は思わず黙った。
「ええ、ええ、私は悲しきかな、嘘の中で生きるしか脳の無い、生き物です」
 彼女は18、姫草の一つ下であった(否、姫草、彼女恐らくは少女と言うに辛い年増であるのだろうが、際、其れは何うでも良い)、僕は19、姫草と同い年である。如何にして僕らが姫草に成れようと、思わないでも無いが、彼女の少女らしさは酷く、愛すべき虚構であるから、
「其れでも私、死んでも嘘に成ると言う事は必定、出来ないと思いますから」
 違うよ、愛。愛は死なないことで嘘を吐くのだから、本当に真理死に損ないの姫草だよ。
「姫草の生きて仕舞って居たならば、必定愛のように笑ったのだと、思いますよ」

(でも、彼女死ぬ以外に無かったでしょう)
(然うですが)
(私は、生きますよ)
(生きます、か)

 ええ、嘘は、生る為のただの手段です、少女は然う言った。ばかだなあ、形は違えども姫草だって、生る唯一の手段として嘘を愛したのだと、言うに。








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