(黒梨と慎)
(愛が居ない頃のこと)
「俺を呼べよ」
「いやだよ、君は僕に何も出来ないんだから」
「だとして、も、」
ただ、其処で泣かれるのが嫌だっただけだ。
「ねえ、自分がお節介って分かってます? 迷惑なんですよ、僕はそんなものが欲しいんじゃない。見え見えの偽善なんか要らない、僕は一人でだって泣ける、君なんか要らない。要らないよ。誰にも関わろうとして、必要とされたがって。欝陶しい。へたな鉄砲も数打ちゃ当たるのかもしれないけれどそんなものは糞だ。そんなちゃちな同情なんてものに頼る? そんなのごめんだね。君が思う以上に僕は多感なお年頃なんだよ、わかります? だから見え透いた嘘で甘ったるいこと言われるのが一番頭に来るんです。君は僕のことを理解したいんじゃない、僕のことを助けたいんじゃない、ただ自分が必要とされている優越感に浸りたいだけなんだろう。別に僕だって理解されたいわけでも助かりたいわけでも無いから、どうでも良いと言えば其れ迄なのだけど。でも、利用されるのはむかつくんです。君の安定剤になってあげるほど、僕は優しくありません。ですから僕は君に頼るなんてそんな負け犬の様な事だけはしたくない。迷惑だよ、僕はお前なんか要らない。要らない、」
ただ、もう誰にも死なれたく無かっただけだ。
「……っ、別に要らなくて良い、でも呼べ、よ」
「要らない、」
「嘘吐き」
「一人が良い」
「嘘吐き」
「それ以上来ないでください、もう保証出来ない。僕は君みたいな偽善者が大嫌いで欝陶しくて死んでしまえば良いと思うけど、殺したく、ない」
ただ、誰も殺したくない、だけだ。
「俺が、お前みたいな阿呆に殺されるかよ」