(匣と奈留)
一瞬だけだ。一瞬だけのためにあの人たちはえげつない額を箱庭に落としていく。
「匣は此処から出たいの?」
「何処も地獄だよ」
「匣のために花を植えても良いよ」
「なんだよそれ」
夜風が窓を叩く。夜更けに髪をとかしにくる奈留は、ゆるりと櫛を通しはじめそれ以上喋らなかった。
一瞬の一晩の長続きのしない夢ばかり売る。空虚を切り売りする僕は虚無だと、お前は笑わない。指先が柔らかく絡まった僕の髪をきちんと戻していく。明日の夢のためかと訊けば僕の眠るためだと言う。
「奈留は」
「僕はこの糞みたいな箱の中がどうしても好きだよ」
「さいていだ」