タグ #よそのこだーれだ 文章版
(語り手→お相手のお名前/親御さん@ツイッターID)



1
 見た。いや見ていない。見たのだけれど見えてはいない。
 これだけで充分に意味が伝わるはずだが私はこれではそのままの意味が伝わらないことを知っている。知っているがそれだけである。言葉が足りないのだとして、これ以上に明確にこの景色を表す言葉を知らない。
 知っているとして今の私にはそれを思考する元気もあまりない。全然ない。多少、疲れている、この景色を認識することに。ティーカップは私の気も知らないで浮かんでいる。

「見た?」
「見えてはいませんね」
「本当のことも言うんだ」
「嘘だけ吐くのはえげつなく正直ではありませんか?」

 確かにね。彼は少し大げさな口調で言う。声しかないことは声だけで姿を想像させる必要があるだろうか。する必要は? 私は頭の片隅に恐らく貴方の表情を空想する。申し訳のないことだろうか。
 小説の中の人物たちは自らの声を、容姿を、思想を、誰かの空想に委ねている。もちろん私も、貴方も。

(愛→ザムザさん/山川さん@mtn_river)





2
 街中にある公園、ぼくたちは三人で並んでベンチに座って行き交う人の電波を見ていた。いくつかの物語をぱらぱらと捲るように。
「あ、すごい」
ぼくらからしたら背の高い、青が通った。鮮烈な青。珍しいくらい綺麗な。黒だったかもしれない。鮮やかな空は網膜を焼くから?
ぼくが声をあげたからか彼は一瞬此方を見て、立ち止まった。視線は透明だけれどまっすぐとしていた。心臓が鳴る。
「何?」
 透き通った空の青がぼくらの思考を掠めてた。言葉の数よりも色彩が強く、黒髪がきらりと揺れる。鮮やかだけれど甘い。しなやかな芯。その目の、青!
「あのね」「あなた」「すっごく綺麗な」

「「「青だった!」」」

 ぼくらは決して上手くはない言葉を発し、彼は少し眉をひそめて首をかしげる。きみがどんな人なのかは知らない。分からない。その青の中に一つだけの思想が詰まっているわけではないことを、ぼくたちはきれいだと思った。

(電波組→アーネストくん/ソヨゴさん@syg_ori)





3
 硬くて、無機質な目をしていた。ような気がする。表情は柔らかいのに、その目は少し機械的で理論で煮詰めたようだなと思った。色素の薄い髪が少しだけ風に揺れる。別にぼくの存在に動じているわけでもなく、淡々と時間をこなしていた。風は濁っていて少し煙たかった。
 灰色の世界で思想を作り上げることについてぼくはきちんと想像することは出来ない。通りかかっただけのきみの心を少しだけ覗いてしまったことへのざいあくかん。
 彼はこちらを見ていない。灰色の景色を見つめている。目に写している。何を考えているのかまで細かに把握するほどぶしつけじゃない。

「少しだけ、ぼくら似ているのかもしれない?」
「そうだろうか、私にはわからないな」

 似ているということはぜんぜんちがうということだから、そういうのは気休めみたいなものなんだ。君の中で作られている英雄というものに、ぼくはえいえんに触れられないだろう。

(アーク→春日江くん/蛍さん@hota_ru_ep)





4
 テレビを点けると画面の向こうで笑っている、簡単に言うとそういう人。笑顔が素敵で歌って踊れるブラウン管の向こう側遥か遠い彼。
 いやうちのテレビブラウン管じゃないし地デジだよっていうのはさておいて、アイドルっていう。いるじゃないですか。もうどうっしようもなくキラキラで! 絶対現世に居ないよなあって、思ってたんです、世界違うよなって。思ってたんですけど。
「え、」
 えっていうか、え、じゃないですよ、あわてて口をふさいだけどもう声は出ててその人はこっちを。向いた。目がはっきりと合う。都会の真ん中あまりにも情報量の多い街の雑踏の中。

「内緒だよ、」

 とキラキラは僕の瞳の中で笑った。雑踏の中でその声だけがはっきりきこえた。あんまり顔が見えないように深く帽子を被っていたけど、覗くキャラメルの瞳がはにかむ。僕は黙って頷いた。
 おいマジか僕と同じ空気吸ってんだ。ちょっと待ってくださいね、キャパシティオーバーです。

(なこと→郁さん/篠宮さん@sino197)





5
 黒々とした髪と瞳が、どんな意味を持っていてこの世界に何を求めていたのかは知らない。白い肌は私のそれよりも白く、作り物のような姿だと思った。神様に近いような。
 私は彼のことをよくは分からない。彼はやわらかい笑みを浮かべていた。何事にも自分の本心を告げていないように。

「御伽噺のお姫様とは違うのね」
「違うよ、キミたちのいう御伽噺は知らないけど」

 私は貴方のことを貴方は私のことを知らない。お姫様は物語の中で意思を持っていたでしょうか。貴方がどうしようもない苦しい運命の最中に居たとして、その目はいったいいくつの絶望を映したのでしょう。
 きっと本当は透明な涙が似合うことを、その綺麗な顔をくしゃくしゃにして素直に頬を濡らして感情を吐露したのなら何よりも切なくいとしいだろうことを。私は知らないけれど、知ってあげることは出来そうにないけれど、この世界の誰かが知っていたらいい。
「なにそれ」
 そうして笑ってくれるなら。

(時姫→白雪さん/かなしさん@tkns1984)



6
 人の多く行き交う道を歩くのは苦手で夜遅くの方が好きだと思いながら歩く。時折人にぶつかったりして、こうなってくると苦手とかじゃなくて下手だ。
 例えば、すれ違う人のことを全て気にかけることは難しい。言ってしまえば無理だ。無理。無理をして、きっと貴方は生きているのだろうな。

「大丈夫ですか」
「ぜんぜんへいき」

 人酔い。したので適当に座り込んで通り過ぎる人間を数えていたら声をかけられた。というか優しくされた。多分。柔らかな声だった。
 道の真ん中で座ることは良くないのかもしれない。良くないというよりは、こう、貴方のような人を困らせる。それは良くない。

「貴方はあんまり、ものを数えないで居たほうが良い、気がするんだ」

 言葉のほうが俺よりも自由で飛び出していた。彼は黒い目を少し丸くして俺のことをまじまじと見つめた。貴方のことを俺の中で確かに違う数にするだろうこと、が、一つも貴方を救えいことは確かでしょう。寂しくはないよ。

(響→森田さん/にぱさん@nipa_nanoze)



7
 教室の端のほうで、過ごしている。机に腕と頭を乗せてぼんやりと。前の席に座るともだち、にゆるく言葉を投げている。猫のように彼女は非常に気まぐれでゆるやかだ。ゆるやかに時間を食っている。恐らく悪意なく無邪気に殺意を買うようなそんなタイプだろう。
「お前が言うのか」
「俺は意図して他人の感情を揺すっているのさ」
 もしくは、強請って。慈草がため息をつくのと同時、彼女の淡い色の髪が教室の南から吹き込む風にあおられた。カーテン越しの太陽は冬でも眩しい。彼女が髪を直そうとして身体を起こすと、下敷きになっていたプリントが舞う。
 慌てて彼女のともだちが拾う、伸ばした手は一枚のがした。教室、真ん中、一番後ろの席の俺の元に届く。ゆるゆるとした動きで彼女は俺の方を向いて、その声をこちらに寄越す。

「ひとふりー、とってー」
「自分でおいで、俺は犬じゃないよ」

 君が例えば、猫だとしても。

(里々→いつかちゃん/水星さん@sui_1120)



8
 非常に長い髪の女の子だった。ふわふわにこにことして、まるで幸福がそこにあるような顔でコンビニから出てきて、から、かれこれ30秒ほど立ちすくんでいる。今の表情は非常に暗い。絶望している。
 30秒で世界は死んだ。彼女は手を滑らせて落とした中華まんを呆然と見つめていた。

 今日は昼まで雨が降っていたため3秒ルールは適用できない。30秒は意外と長く彼女の絶望は深い。この場に俺しか居なくて良かったな。
「……あの、」
 これ食べますか。俺の手には先ほど自分の昼飯にしようと買った中華まんがひとつ。お節介というのはもうどうにも止められるものではない。

 振り向いた少女は俺のほうを見て「コ、スモス?」驚いたように目を見開いた。
 透明な水を湛えた目。俺はこの少女を知らない。初めましては先ほどの幸福顔で、次が絶望顔で、今だ。それは果たして本当だろうか。俺は彼女を、?

「えっと、あんまんだった?」
「いえ、あってます、にくまんです」

(黒梨→葵ちゃん/遠子さん@tohko_aoi)




ありがとうございました!


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