周りと同じ色の平凡な君

学校はつまらない。
強い奴もいないし、みんな同じ色のザコばっかだし。何のためにここにいるんだろう。
俺、通う必要あるのかな。


ーーーーー

ずっと、そう思い続けていた。
小学校のときも、中学校のときも、そして高校に通っている今も。
みんな同じ色で、たまに違う色がいるかと思えばそれはボーダーの人間で。それでもそこまで面白そうな色の人間はいない。溜息すらも出ず、昼休みのチャイムが鳴ると天羽は教室を出た。


「あ」


中庭まで出てきてふと気付く。
今朝にコンビニで買ったパンがない。手ぶらで教室を出てしまったせいで持ってくるのを忘れてしまった。


「……戻るの面倒だな」


ぽすっと木の根元に腰掛け、空を見上げた。


「……でも食べないのはお腹空く」


戻るのは面倒で嫌で、けれど食べないまま昼休みを過ごすのはもっと嫌で。


「…どうしよう」


そうは呟くものの、動く気はない。ぐぅっとお腹が鳴ると、今度こそはぁっと溜息が漏れた。


「お昼忘れたの?」


突如聞こえた声に視線を空から前に戻す。
そこには先ほどまではいなかった少女がしゃがみ込んで首を傾げていた。少女は真っ直ぐな瞳で天羽を見つめている。


「………何」
「…?お昼、忘れたの?」


君はいきなり何なの。そういう意味で問いかけたつもりの言葉だが、少女は聞こえなかったと勘違いして繰り返した。


「…忘れたよ」
「あ、じゃあこれ食べる?」
「は?」
「私が作ったお弁当だけど、良かったら食べて!」
「……何で」
「お昼忘れたんでしょ?」
「だからって何で君がお弁当くれるの」
「え?だって、君が困ってたから」
「………」


何を聞いているのかと不思議そうに首を傾げた少女。不思議なのはこっちだと僅かに眉を顰めた。


「あ!ご飯派じゃなくてパン派だった!?流石にパンは持ってきてない…!」
「…まあ、ハンバーガーは好きだけど、別にどっちでも良いよ」
「ハンバーガー!うん、分かった!じゃあ今度はハンバーガー作ってくるね!」
「…何で」
「だって好きなんでしょ?」


再びきょとんと見つめられた。その瞳はただただ真っ直ぐで。意味が分からないと小さく溜息をつく。


「意味分かんない」
「何が?」
「君」
「私?」
「そう」
「何が?」
「……もういい」


今度こそ大きな溜息が出た。首を傾げた少女の手から弁当を受け取り、遠慮なく開け始める。こんな会話をして昼休みを潰すのは御免だ。せめて何か腹に入れたい、と。


「いただきます」
「!う、うん!」


きちんと手を合わせてから弁当に手をつける。彩りも綺麗で美味しそうな弁当からおかずを1つ摘み、パクリと口へ運ぶ。僅かに天羽の目が見開かれた。


「…ど、どう…かな…?」


先ほどまでと違って不安そうな瞳。何かに怯えているようにも見えた。本当に意味が分からないと思いながら、ごくりと飲み込む。


「………美味しい」
「!!ほ、本当に…?」
「何で嘘つくの」
「…!あ、ありがとう!」


嬉しいそうににかっと笑った少女に、天羽は眉を顰める。何故自分がお礼を言われているのか。


「口に合って良かったよ!あ、その卵焼きは今日1番の自信作だから食べて食べて!」
「…いいから君も早く食べなよ」
「私のはないよ?」
「………は?」
「だって君にあげたやつが私のだもん!」
「………」


にこにこと微笑んだままの少女に無言のまま食べかけの弁当を突き返した。再び不思議そうな顔をされる。


「自分のないなら普通渡さないでしょ」
「でも君が困ってたから」
「俺のことなんかより、自分のこと考えなよ」
「私は人の役に立てた方が嬉しいから。だから良いの!食べて!」


ぐいっと弁当を押し戻される。
弁当がない相手の弁当を食べるのは流石に気が引ける。しかも今日初めて会った人なのに。


「初対面の相手にそこまでする?」
「しない?」
「しないよ。関係ない他人にそこまでする必要がない」
「そうかな?私にはそんなの関係ないよ。初対面だって、腐れ縁の人だって。みんな同じだもん」
「……君はよく分からないね」
「君とは初対面だからね!」


笑顔で告げられた言葉に余計意味が分からなかった。けれど本人はにこにこと楽しそうで。


「あ!先生に頼まれごとされてたんだった!忘れてた!」
「………」
「じゃあ私は行くね!お弁当箱はここに置いておいてくれれば良いから!」
「え」
「またね!」


ぶんぶんと手を振って去って行く少女の背中を、天羽はじっと見つめた。そして姿が見えなくなってから再び箸を動かし、弁当を口へ運ぶ。やはりどれを食べても美味しい。もぐもぐと味わって食べ、少し幸せな気分になれた。これだけで今日はここに……学校へ来た甲斐があるというものだ。


「…弁当箱、どうしよう」


まだ中身は残っているが、食べ終わったあとのことを考えた。流石に置いていくことは出来ない。
勝手に弁当を渡されて勝手に話を進められて、勝手に戻って行ったよく分からない初対面の少女。久しぶりにまともな食事をしながら、珍しく他人のことを考えた。


「そういえば…」


名前はなんていうんだろう。


ふとそんなことを思ったが、すぐにその考えは消え去った。お弁当が美味しい。今は食べることのない手作りの味を静かに噛み締める。

もぐもぐと口を動かしながら、再び空を見上げた。先ほどの少女を思い起こすような太陽がきらきらと輝いて眩しい。
その眩しさに目を細めた。今日は、雲1つない快晴だ。

ーーーー

出会ったのは、周りと同じ色をしたどこにでもいるようなやつ。けど、よく分からない変な君だった。

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